オリオールの乙女
「きゃっ」
突然強い風が吹いて、彼女のハットが飛んでいった。まとめていたシルバーの髪が、ふわっと風に舞う。
「お嬢さん、危ないよ」
口ひげをたくわえた小柄なおじさんが、ノエルにハットを手渡した。
「ありがとう」
ノエルは、戸惑った笑みを浮かべながらお礼を言った。
「おや、美しい髪だね。ディディエ様とおんなじだ」
おじさんはそう言って目尻にしわを浮かべて笑うと、どこかへ言ってしまった。
ハットを受け取ったノエルは、あせくせしながら髪をハットの中にしまった。大丈夫、誰も気付きやしない。
だって、城内はあまりにも退屈だ。母上であるディディエのような物静かさは受け継いでいない。ノエルは、外で思い切り遊ぶほうが向いているのだ。