オリオールの乙女
一匹のアルムが、虫と戯れていた。小さい胴体を精一杯伸ばして、チョウチョを追いかけまわしていた。小さいしっぽを、楽しそうに振っている。
「うふふ、可愛い」
その愛らしい光景を、画家たちが噴水に腰掛けてスケッチしていた。
平和だ。彼らの幸せに満ち溢れた呼吸を沢山吸って、ノエルは満足げに背伸びをした。
その時、アルムが急に威嚇するように吠え出した。
「どうしたの?」
ノエルがそう言ったとたん、彼女は後ろから羽交い絞めにされた。
「きゃっ!!」
体格の良い男がノエルを掴んだ。苦しい。彼女はじたばたともがいた。声も出せない。あっという間にノエルは持ち上げられ、掻っ攫われてしまったのだった。
「人攫いだ!!」
穏やかな広場が騒然となった。アルムがけたたましく吼えている。人攫いは物凄い速さで走ってゆく。ノエルのハットが飛び、シルバーの髪がなびいた。
「あれは!皇女のノエル様だ!」