アイツは私の初彼氏
「そーだよ」
その時、克幸の後ろからのん気な声が聞こえた。
「奏真っ?」
私の声に、克幸も振り返る。
そこにはいつも笑いを絶やさない男が立っていた。
「沙織ちゃんとオレは付き合ってるよ。今日だって、2人で帰る約束してたしね」
「なっ……」
そんな約束してないぞ!それにいつからお前と付き合ってる事になったんだ!
そう言ってやりたいのに、突然の展開に口が上手く回らない。
「そうか、それなら俺は邪魔だな」
克幸は自嘲気味にそう言うと、さっさとその場を立ち去ろうとする。
「待っ……克幸!」
「さお、またしばらくは話せないと思う。それから、誕生日おめでとう」
背中を向けたまま冷たくそう言い放つと、克幸は行ってしまった。
私はまるで足がその場に凍りついた様に動けず、ただそれを見送っていた。
自分の誕生日なんて、忘れてしまうほどに。