アイツは私の初彼氏
「―――あっ、今日お誕生日なんだ?おめでとう!」
奏真がいつもの軽い調子でそう言う。
お前な……。
私は怒りを込めた目線を奴に向けた。
「沙織ちゃん、……怒ってるよね?」
「当たり前だろ!あんな嘘ついて、何のつもりだよ!」
「うーん、もっと食いつくと思ったんだけどなぁ。失敗かな?」
私の聞いた事に答える風でもなく、奏真は独り言みたいにそう口にする。
「奏真?」
「カバン取りに行こう、沙織ちゃん!お詫びに帰り道クレープおごるから!」
「えっ?ちょっと、」
訳の分からない私の手を強引に引くと、奏真は校舎内へと進んでいった。
「はぁ……」
家に帰った私は、すぐに2階に上がって部屋のベッドに寝転がった。
部屋の壁を見る。
この向こうには克幸がいるのに、それを隔てる壁みたいに私とアイツの間は近くて遠い。