アイツは私の初彼氏
小さく聞こえた声に、私は耳を疑った。
「克幸?」
振り返ると、自分の家に向かう克幸と目が合う。
静かな目だ。
「約束なんて絶対にしない。俺は、さおにしかああいう事する気はない」
そう言い放つと、呆気にとられる私を置き去りにした。
バタンと克幸の家のドアが閉まるまで、私は言われた言葉の意味の理解が出来なかった。
「克幸のヤツっ!」
私は部屋でクッションを壁に投げつける。
もちろん、克幸の家の方向に。
けれどそれは、ボスンと消化不良な音をたてただけで落ちた。
「急に意味わかんねぇ!」
落ちたクッションを殴ってから、目に入った自分の手首をまじまじと見る。
強い力で握り締められた両手首。
思い出すと、その手の温度がじわりと蘇った。