アイツは私の初彼氏
「……さお」
ふわっと、空気が動いた。
気がつくと私は、克幸に抱きしめられていた。
「なっ、何す―――」
もがくと、更に強い力で抱きしめられる。
「離せよっ!」
首が急速に熱くなってくる。
息が上手く出来ない。
「―――なぁ、沙織」
『沙織』?
なれない呼び方をされて、思わず動きを止める。
「お前、俺が嫌いか?」
言われた言葉が一瞬理解出来なかった。
嫌い?
克幸を?
そんなワケないじゃないか。
「嫌いならそうと言えよ。そうすれば、もうお前にこんな事はしない」
「……」
「嫌い、か?」
それは、ひどく遠慮がちに聞こえた。
「……じゃ、ない」
「……ん?」
「嫌い、じゃない」
それは、それだけは分かってる。
その途端、また克幸が私を抱きしめる力を強めた。