アイツは私の初彼氏
「伊波くん、今大丈夫?」
その可愛らしい声の持ち主は、黒く長い髪で小柄な女の子だ。
「えっ?ああ、森崎か」
「ちょっとだけ時間取れないかな?」
彼女の様子に、私は思わず壁に張り付いて隠れた。
あれは、告白だ。
いつも手紙をもらう立場の私には分かる。
上目づかいで克幸を見つめる彼女。
「……分かった」
克幸が了承すると、2人は廊下を歩き出す。
ど、どうしよう。
気がつけば、私の目は2人を追っていた。
彼女がひと気のない化学室に入ると、克幸もそこに入る。
私は化学室の窓から見える2人の姿を見ていた。
森崎さんが何か話している。
克幸はそれを静かに聞いていて。
私、こんな事してていいのか?
いや、ダメだろ!
でもでも、私は教科書を借りたいだけなんだしさ……
心のどこかで、天使と悪魔が言い争いをしている気がする。