アイツは私の初彼氏


『違う』『そうじゃない』。

私の頭の中はそんな言い訳でいっぱいになるけれど、声は出なかった。

何故ならまるで言葉を奪うかの様に、口を塞がれていたから。

後ろには教室の壁があって、私はそれ以上逃れる事は出来なくて。



噛みつく様な勢いで、克幸は私の口に割り込む。

言葉では伝えられない事を伝えようとするかの様に。

泣いて、すがる子供の様に。



お互いに苦しい程の呼吸を始めた頃、克幸がゆっくりと離れた。

「……ごめん」

謝ったのは、私じゃなく克幸だった。

ひどく辛そうな顔でうつむいている。

「克幸―――」

私が何か言おうと口を開くと、その悲しそうな目を一瞬私に向けて、きびすを返す。

そしてそのまま、逃げる様に教室を出ていった。


ひどいよ、克幸。

こんな風に置いていくなんて、さ。

夕日の差し込む教室で、私は1人立ち尽くしていた。



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