CHANCE 2 (後編) =Turbulence=
俺は、ジョージと話が盛り上がっている鶴海秀夫のビジョンを覗いてみた。
彼の右肩の上には、リビングでピアノを弾いている幼い鶴海がいた。
頭の中で、彼の過去の時間を本のページをめくる様にして、徐々に現在へと進めていった。
幸せそうな家庭は、ある日を境目として崩壊していった。
鶴海が16才の夏、彼はピアノコンクールを間近に控え、毎日練習をしていた。
調律師の母は、息子の為に自宅のピアノはちゃんと調律してあった。
設計技師の父は、リビングから聞こえてくる息子の指先が奏でるメロディー
を、自分の仕事場になっている2階の設計事務所で心地良く思いながら聴いていた。
ある日、父の兄が金を貸して欲しいと、訪ねてきた。
度々金のむしんに遣ってくる父の兄に対して、両親共々かなり困りはてていた。
それから数日後、借金だらけの兄が自殺した。
父が設計した都立図書館の屋上から飛び降りたのだ。
連絡を受け驚いた両親が、現場へ向かって行く途中の踏切で悲劇は起きたのだ。
遮断機が故障していたそうだ。
だから、列車がやって来ているにもかかわらず、兄の自殺に動転していた父は線路へと進入して、遣ってきた列車と衝突してしまった。
それは、一瞬の出来事で大きな音と共に父の運転していた車は宙を舞い線路沿いへと落下していった。
両親の突然の事故死のショックは、幼い子供の心を破壊するに十分だった。
16才の少年は、チーマーの一員となり、喧嘩の日々を過ごしていた。
こんな鶴海の悲しい過去を見るのが辛くなり、彼の過去のビジョンから最近のに変えてみた。
そこには、秋菜さんと楽しそうにデートをする鶴海がいた。
そして、帰宅した彼の家には、なんと他の女性が食事を用意して待っていた。
20代前半の可愛らしい女性と一緒に住んでいた。
優しく微笑み掛ける彼女が、鶴見から生活費らしきお金を受け取り、彼女はそのお金を仏壇に供えてから手を合わせ、暫くしたらそのお金を食器棚の引き出しに締まっている。
まるで夫婦の様な2人の生活が、俺に怒りを覚えさす。
秋菜さんが居ながら、他の女性と同棲しているなんて……
俺は、静かに立ち上がると、
「すみません。
そろそろ帰ります。
今日は、楽しかったです。
ご馳走様でした。」
『そっかぁ!
じゃあ、チャンス君もジョージ君も気をつけてな!
また会おうぜ!』
そして、俺達は帰路に着いたのだ。