CHANCE 2 (後編) =Turbulence=
今朝、会社に行くと星川部長に呼び出された。
『部長、お呼びでしょうか?』
「木村アナ、君は今日から1週間、休みになったから。
それから社長命令で、山崎幸次郎の付き添いに入って貰いたい。
先ほど意識が戻ったそうだ。
一般病棟の個室に入っているから。」
『本当ですか?』
意識が戻ったと聞いて、嬉しさの余り、思わず涙が溢れてきた。
「木村アナ、泣かないの!
意識は戻ったけれど、まだまだ予断を許さない状態なんだ。
彼の身の回りの世話、お願い出来るね?」
『ハイ!』
「それじゃあ、早速病院の方に向かってくれ。
病室は、本館病棟6階の603号室だから。」
『分かりました。
ありがとうございます。』
「お礼なら常務に言うんだな。
チャンス君が、社長に掛け合ってくれたそうだ。」
『そうだったんですか。』
「一応、毎日夕方5時に社に連絡を入れること。
それから、週明けには、一度会社に顔を出してくれよ。
スケジュール調整もあるからな!」
『分かりました。』
「それじゃあ、そういう事だから。」
『ハイ。
それでは失礼します。』
「定時連絡忘れるなよ。」
『ハイ。』
私は一旦自宅に戻って、仕事の服から少しだけお洒落した楽な服装に着替えて家を出た。
途中、花屋に寄って、彼の好きな白いバラをメインにアレンジメントしてもらい、キレイにラッピングして病院へ向かった。
コンコン!
と、軽くノックをしたが返事はなかった。
そ~ッとドアを開けて、病室に入っていった。
彼は、静かに眠っており、昨日まで付けられていた人工呼吸器はなかったが、バイタルを取るための機械は外されていなかった。
肩口には、大きな包帯が巻かれており、頭にもネット型の包帯がされていた。
私は彼の横に座り、大きな彼の手を握って祈る様にうなだれた。
彼の手を見つめていると、涙が溢れ静かな病室に木村アナの嗚咽だけが小さく震えた。
"お願いだから神様! 彼を助けて!"
心の中で、何度も何度も祈り、そしてまた彼の手を握りしめた。
そしたら暖かい彼の手が、私の手をそっと握り返してきた。
驚いて顔をあげると、優しい彼の目がこちらを見ていた。
『や‥‥山崎君。』
「来てくれてたんだ。」
『心配したんだから!
もしもの事があったらどうしようって怖くなったんだよ。』
「ありがとう、心配してくれて。」
『もう‥‥‥わ‥‥私‥‥私‥‥あなたが‥‥居なくなっちゃうかと‥‥‥』
後はもう涙声で、何を言っているのか分からない。
病室は、彼女の泣き声しか聞こえない。
「イクチャン、俺は大丈夫だから。
泣かないで!」