CHANCE 2 (後編) =Turbulence=
2. For Company
渋谷のクラブ''Seoul Night''では、週末ともなると芋を洗うが如くの超満員で、カウンターバーにも、ホールから溢れた若者達がビール等を片手に時間潰しの談笑を交わしている。
テーブルもVIPルームも人で溢れて、ホールはホールでダンスどころではない状態が、かれこれ3時間も続いていた。
それでも深夜0時を過ぎると、落ち着いてきて、ホールも踊るスペースが出来てくるのだが、まだ9時過ぎだから暫くはこの状態だろう。
週末は朝5時までの営業で、平日は3時で閉店となる。
Seoul Night 1号店の支配人、安東淳志(あんどうあつし)は、今日も店内をチェックしながら、未成年者の喫煙や飲酒がないか監視していた。
この店は、身分証の提示が無ければ入店は出来ないシステムになっている。
初めて来店された人は、入口にて身分証明書の類いを提示してもらう。
その時点で、瞬時に会員証を発行して、次回からはその会員証を提示すると入店が許されるのだ。
その会員証は読み取り式で、読み取り機と店内に有る端末が連動しているのだ。
すなわち今現在、店内に未成年者が何人居るかとか、男性が何名とか女性が何名とかのデータが手に取るように分かるようになっている。
支配人は、責任もって10時には未成年者に退店してもらっている。
その代わり、営業開始は夕方5時からとかなり早いのだ。
深夜2時を過ぎた頃、エントランスで数人の男達がドアボーイに大声でさけんでいた。
支配人の俺は、何か揉め事なのだろうかとモニターから目を離してエントランスへと急いだ。
「身分証を見せてください。」
『若造、俺の事知らないの?
支配人呼んでくれるかな?』
「渋谷署の平田刑事さんじゃないですか!」
『おう、安東支配人!
このドアボーイは新人か?』
「はい。
この4月に入社して来て、1年間はこの店で研修なんですよ。」
『このあんちゃんに、俺の事教えとけよ!
俺に身分証明書出せだとよ!』
「まぁ、入ったばかりだし規則なんで、今回は大目にみてやって下さいよ。
福田幹部候補生、この人は渋谷署の刑事の平田さんだ。
渋谷の狼って恐れられた、凄腕の刑事さんだから。
ちゃんと覚えておくように!
分かったね?」
『渋谷の狼ですか?
キャンキャン良く吠えるから、トイプードルの間違いじゃないですか?』
「おい、あんちゃん!
良い度胸してるな!
新人が吠えてんじゃないよ。
この俺が‥‥」
『スミマセン平田さん!
この俺が、ちゃんと教育しときますんで、今日のところは‥‥』
「分かった!分かった!」
『ところで今日来られたのは、何かあったんてすか?』
「おっと!忘れるところだった。
お前ん所の店内で脱法ハーブの売買が合ったぞ!」
『うちでですか?』
「あぁ、そうだ!
ついさっき、若いアベックが救急車で病院に搬送されてな!
男の方は意識が無いが、女の方は目眩と吐き気だけで、意識はしっかりしているんだ。
男の症状が異常だったんで、発見されたのが渋谷の路上駐車された車ん中だったから、俺んとこに通報が入ったんだよ。
ほんで、女の方に尋問かけたら、おめぇんとこの店で知り合った男から脱法ハーブを買ったって吐いたわけよ。
彼女の証言から、売人の人相書きを描いたのがこれだよ。
見知った顔か?」
『ちょっと良く見せて下さいね。
‥‥‥‥
う~~ん!
どっかで見た事有る顔なんだけどなぁ‥‥
あぁ、思い出せない!』