CHANCE 2 (後編) =Turbulence=
マンションの地下駐車場には、最近購入したばかりの愛車、ホンダの黒のエリシオン。
移動中、運転してても疲れにくく、コンパクトなフォルムのわりに中は広々としてて、燃費も良い。
仮眠をとるときでも、楽々横になれて、以前乗ってた車の様に車高を気にしなくても良い。
車内の内装は豪華なのに、価額は通常の乗用車とさほど変わらない。
兎に角、今一番のお気に入りの車だ。
エリシオンに乗り込みエンジンをかけると、渋谷署へ向けてスタートした。
カーステレオからは、KYUの最新アルバムに収録さらている新曲''失恋''が流れている。
これは、俺の作詞作曲でアボジのアレンジが入った1曲である。
来月には、シングルリリースの予定で、宣伝の為にアルバムに入れたのだ。
だから、アルバムのジャケットには、タイトルのVarious Loveの横に失恋の文字が並んでいる。
失恋ってタイトルだけれども、悲しい別れの歌なんかじゃないぜ!
今まで付き合ってきた恋人と破局したり、好きと告白したけど玉砕したり、色んな失恋があるけれど、それを乗り越えて見つけろ新しい恋をって感じの歌なんだ。
今までKYUが歌ってきた曲の中で、一番アップテンポで、BPM=172と言う厄介な早さだ!
KYUだからこそ歌いこなせるって感じで、作ってみたんだけど、歌詞の字数を少な目に作詞しても尚、歌いきるには大変なレッスンを要してしまった。
バックコーラスには、美racle/Ladyのボーカルのチャンミこと、李昌美(イ・チャンミ)が参加している。
俺が、会社のスタジオでKYUと一緒にこの曲のレッスンをしているとき、ちょうど収録終わりで会社に戻ってきたチャンミが入ってきて、
『この曲ってKYU先輩の曲ですか?』
「そうだけど、どうして?」
『とってもアップテンポだけど基本的なリズムとメロディーはk-pop調で、歌詞の内容も中々面白いですね!
私も歌いたいです。
バックで良いので私も参加させて下さい!』
「それでも、スケジュールの関係があるから、音楽番組で歌ったりライブで歌ったりするのには一緒にって訳にはいかないよ。
マイナスワン(ボーカル抜きの音源)の中にチャンミのバックを一緒に収録する形なら大丈夫だけど、それでも良いんなら、バックコーラスとしての参加をOKするよ。」
『それでも良いです。
とてもこの曲、気に入りました。
高(コ)常務、私達にもこんな曲を書いてくださいよ。』
「そうだな!
また今度書いてあげるよ。
KYUの今回のアルバムのレコーディングが終わってからね!」
『ほんとですか?
有難うございます。
それじゃあ、それまでに私達も何曲か作っておきますので、見てください。
それで、それらの曲でアルバム出させて下さい。』
「良いとも。
それじゃあ、10曲作って来てください。
それも、全て違うジャンルの曲をね!
以前XYZが遣ってたチャレンジアルバムは知っているよね?」
『はい、知っています。』
「あれをあなた達もやってもらいます。
あなた達から10曲書いてきてもらい、それに私からの提供曲5曲を足して、全15曲収録のチャレンジアルバムとして、半年後にレコーディングしましょう。
しかし、あなた達が作ってきた曲が駄作なら、あなた達はアルバムを出すどころか韓国へ戻って、もう一度最初からレッスン生と一緒に勉強して貰いますからね!」
チャンミは、ハイ!と言ってはみたものの、真っ青な顔をして頬を弾き釣らせていたなぁ…
そんな事を考えているうちに、車は渋谷署に到着した。
来客用の駐車スペースに車を停めて、家を出る前に連絡しておいた平田刑事の元へと歩を進めた。