CHANCE 2 (後編) =Turbulence=





『すみません。先程電話をした高山ですが、平田刑事は‥‥‥?』



「はい、伺っております。

それでは、こちらの方へどうぞ。」



と言ってエレベーターに乗り込み、3階へ。



取調室4と書かれたプレートのある部屋に通され、暫くお待ちください!と言って案内してくれた人は出ていった。



扉は開いたままだ。



10分程待たされた頃、ビシッとアイロンのかかったカッターシャツに黒のタイトなスラックス、趣味の良さそうな濃紺の細目のネクタイ、年齢は大体45~6才の鋭い目付きで隙の無い身のこなしの男性が入って来た。



『待たせたね!

私が平田と言います。

渋谷署刑事課の刑事部長をしております。』



と言って、黒皮の名刺入れから一枚の名刺を取り出し、俺に差し出して取調室の椅子にドカッと腰掛けた。



俺も内ポケットから名刺を取り出して、取調室のデスクに向かって座っている刑事の目の前にソッと置いた。



平田と名乗った刑事は、怠そうに手を伸ばして俺の名刺を手に取ると、



「ホォ~!

その若さで新星グループの代表取締役常務で、高山観光株式会社の社長でギタリストですか?

高山観光って会社は、どんな会社なんですか?」



と、いきなり今回の事件と関係無い事から不躾に聞いてきた。



だから、俺もめんどくさそうに



『飲食業ですが、何か?』



と、逆に質問してみた。



しかし、特に興味も無かったみたいで



「あぁ、そうですか!」



と、そこで会話も終了した。



とっとと終わらせたいので、こちらから本題を切り出してみた。



『ところで刑事さん、今日呼び出したのには何か用事が合ったんじゃないですか?

脱法ハーブの件で、こちらに何か調べたいとか言っていたそうですが?』



「あぁ、あれは建て前だよ。

本当のところは、おたくにお願いが有ってきてもらったんだよ。

それも、誰にも秘密で!」



『どう言った事でしょうか?』



「まぁ、そんなに慌てないで。

その前に、そちらの新星グループの社長っていう方は今何処に?」



『父は今、家族でハワイに行ってます。

今回の件で、私だけ先に帰国して来たんで!』



「アッそうだったんですか!

それは、お邪魔しました。」



『それより早く本題に入って下さい。

この後、予定が入っていますので。』



「済まないな!

それじゃあ本題に入りますが、最近色んなところで脱法ハーブの事件が起きているんですよ。」



『それは、私もニュースで良く耳にします。』



「その脱法ハーブの入手経路が、大抵クラブとかゲームセンター、それと路上だけど、中でもクラブでの入手が非常に多いんだよ。」



『成る程!

確かに、あの場所ならほの暗いし、色んな人が集まるし、売り捌くにはもってこいの場所になりうるな。』



「そこでだ、けっこう客層の良くないクラブなんかは、以前からずっと張り込んだりしてるんだよ。」



『そんな事、俺にばらして良いのですか?』



「おたくなら問題ないだろう。

外で余計な事をしゃべる様な人間には見えないからな。

話は戻るが、おたくのクラブSeoul Nightですか、その渋谷店と新宿店の2店舗だけで良いので、2人ずつ張り込まさせて貰いたい。

それも、アルバイトスタッフとして。

たぶん、またおたくの店内で売り捌く馬鹿が現れると踏んでいるんですよ。

なんと言っても、おたくのお店は優良店ですから、警察に目を付けられていないと考えているはずです。 」



なんなんだろう?



この刑事さん、そこら辺にいる普通の刑事さんとは明らかに違う。



読みも深いし、観察力も凄いんだろう。



なんの躊躇もしないで、初対面の俺に捜査の手の内を証したり、その瞬間の俺の表情をのほほんとした態度でサラッと読み取っている。



ベテラン刑事って生き物は、こんなにも凄いのか!



まだこの刑事さんと対峙して5分も経っていないと言うのに‥‥‥‥




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