CHANCE 2 (後編) =Turbulence=
「顧客台帳ですか?
警察に顧客台帳を見せるなんて初めてですよ。
それでは、捜査令状を持って来られたのですね?」
『いや!
そんなの持って来てないが、ササッとパソコンのデータファイルから顧客台帳をプリントアウトしてくれるだけで良いんだが。 』
「ほんとに貴方は刑事部長なんですか?
すっごい適当なんですね。
正規の手続き無しでの行きなりの申し出に驚かされるのは、これで2回目ですよ。
分かりました。
少しお待ちください。
(デスクの内線で)<ハ秘書、Seoul Night の顧客台帳をプリントアウトして持って来てください!>
直ぐに持って参りますから、暫くお待ちください。」
『おたくも変わった常務さんだよね!』
「私が変わってますか?」
『あぁ、変わってるよ。
ふつう、刑事が突然やって来て、潜入捜査に協力しろとか、顧客台帳をプリントアウトして持ってこいなんていったら、経営者サイドの人間は皆嫌な顔をするんだが、あんたはケロっとしているし、特に文句も言わない。』
「どうせ、突っ掛かって文句を言っても、最終的には協力をさせられるなら、気持ちよくスムーズに行った方が気持ち良いじゃないですか!
それに、新星グループは、見られて困るような悪いことをしていないから、国民の義務として協力させていただきますよ。」
『おたく‥‥‥いや、高山常務さん、感謝します。
わたしも、ホントはキチンと手順を踏んでお願いしたいのですが、何せ急を要するんでね。
次の被害者が出る前に犯人を捕らえたいって言うのが、俺の正直な気持ちってところかな。
そう言う訳だから、無礼は許して下さい。』
「分かりました。
こちらも、できる限りのお手伝いはさせていただきます。」
『それにしても、若いのに大したもんだ。
確か23才でしたよね。』
「はい、そうです。」
『その若さで俺の睨みを跳ね返すし、俺がわざと横柄にとった態度にも顔色を変えない。
無理な押し掛けにも冷静に対応して、ほんとに大した男だよ。
俺の23才の頃って言えば、給湯器みたいに直ぐに熱くなって食って掛かってたぜ。』
「なんか、今日は良く話されますね。
もっとムスッとした気難しい人かと思いましたよ。」
『ハハハ、部下の前ではそうしてるよ。
あんまり喋りすぎて部下に舐められても困るからな。
上司は、怖いくらいが丁度良い世界だからな。
これでも、家に帰れば可愛い女房と17才になる娘が待っているんだぜ。
見てみるか家族写真。』
と言いながら、内ポケットから定期入れを出して、親子3人で写った写真を見せられた。
「可愛いお嬢さんですね。」
なんて言ったから、
『やらないからな!』
なんて、親バカを見せつけられた。
そうこうしていると、小会議室のドアが
コンコン!
「はい、どうぞ!」
『コ常務、顧客台帳をプリントアウトしてきました。』
「悪いですね。こんなことを頼んで。」
『大丈夫です。
これも私の仕事ですから。』
顧客台帳をデスクの上に置き、一礼してからハ秘書は出ていった。
デスクの上の大きな封筒に入った顧客台帳を平田刑事にわたすと、早速中を確かめてから封筒に戻して立ち上がった。