CHANCE 2 (後編) =Turbulence=





フロントのカウンターには、川田店長が忙しそうにお客と対応していた。



すると、若いスタッフがやって来て



『お疲れ様です常務。

今日はお二人ですか?』



「あぁ、ちょっと打合せがしたいので、静かなフロアの部屋をお願いしたいのだが、大丈夫ですか?」



『この時間帯でしたら、ピーク時を過ぎてますので、問題ないです。

3階が今は誰もいませんのでそちらをお使い下さい。』



「助かります。

アッ、それから、便箋と封筒とボールペンを用意してくれますか?」



『分かりました。

直ぐにご用意致します。』



「ありがとうございます。

それでは、部屋に行ってます。」



と言って、指定された301号室に福田と二人で向かった。



数分後、先程のスタッフが頼んでおいた便箋と封筒とボールペンを持ってやって来た。



そのスタッフが去った後、漸く本題に入った。



まずは、力を解放して



<これからの質問に全て正直に答えてください。>



と命令してから、



「貴方の友人が脱法ハーブを売り捌いたんですね。」



と尋ねた。



福田は、



『大学時代に知り合ったチーマーの男に頼まれて偽の会員証を作って、店内に率いれました。

男は、店内で脱法ハーブやマリファナなんかを売り捌いて、儲けたら俺にもマリファナを譲ってくれてたから。』



「貴方の友人というのは、本名はなんて言うのですか?

その人物は、いつも何処にいるのですか?」



『あいつの名前は黒川潤(くろかわじゅん)。

皆からは、JBって呼ばれている。

いつもは、池袋のビリヤード店【ナイン ショット】って店に屯(たむろ)してます。』



「分かりました。

それでは、こちらの便箋に辞表を書いてください。

内容は、一身上の都合で構いませんから。」



『はい。』



と言って、渡されたボールペンを握ると、便箋にすらすらと辞表を書いていき、封筒に辞表の文字を書き込んだ時点で、今度は



「それでは、只今から貴方はその黒川潤と言う男のところへ行って、彼を渋谷の明治通りと六本木通りの五叉路の角まで連れてきてください。」



『はい、分かりました。』



「それでは、電話をかけて、買い手が見つかったからと言って、出来るだけ沢山の脱法ハーブやマリファナを持って来させてください!

そして、例のビリヤード店の前で合流して先程の指定した場所迄来てください。」



『はい。』



福田は、黒川と言う男の携帯に電話をかけて、先程の指示通りに話している。



30分後



ビリヤード店【ナイン ショット】の前に、黒川が現れた。



俺は、彼の脳内に直接、



<福田と二人で明治通りと六本木通りの五叉路まで行け!

そして渋谷クロスタワーの駐車場へ入れ。

その駐車場にいる男性がブツを高値で買ってくれる。>



と、適当なことを命令しておいた。



そして、福田と合流した黒川は直ぐに乗車して車を発進させていた。



俺は、自分の車から平田刑事の携帯に電話をかけた。



「モシモシ、平田刑事ですか?

高山ですが、脱法ハーブを売り捌いていた男を手引きをしていたのが、どうやらうちのドアボーイだったみたいです。

スミマセン。」



『本当なんだな?』



「はい。

これから渋谷クロスタワーの駐車場で脱法ハーブやマリファナの売買が行われるため、今うちの福田と黒川潤と言う男の二人がそちらに向かっています。

直ぐにそちらに向かってくれますか?

買い手はいません。

私が仕組んだ事ですから。

相手は、買い手が誰かも知らず、ただ駐車場にいる男性が高値で買ってくれると信じて向かっていますので。」



『随分と無茶苦茶な事を!

分かった。直ぐにうちの屈強なのを一人待機させておくよ。』



電話を切ってから、俺もクロスタワーに向かった。



渋谷クロスタワーの道路を挟んで向かいには渋谷署がある。



彼等が到着する頃には、幾人もの警官が待機して、バイヤーに化けた刑事が網を張って待っている事であろう。



俺が到着した時には、既に数人の警官に取り押さえられた福田と黒川が、ちょうどクロスタワーの駐車場から出てくるところであった。



俺は、力を解放して黒川と福田の頭の中へ



<全て正直に話して、罪を償ってきなさい。
仲間が居るのなら、その仲間の事も全て正直に話して、誰がマリファナパーティーに関わっていたかも話しなさい。>



と、命令しておいた。



その時、後ろから



『高山さん!』



と、いきなり名前を呼ばれた。



振り返るとそこには、



「平田刑事さん!

ビックリしたじゃないですか!」



『ビックリしたじゃないですか!じゃないぞ!

一体全体、どうやって調べたんだ。

こっちには、まだ何の情報も得て無かったのに。』



「たまたまですよ。

福田が、トイレで独り言言ってたのが聞こえて!

私がお手洗いに居たときに、俺の存在に気づいて無かった奴が独り言で、[マリファナパーティーだ!]なんて言っていたから、彼を使って黒川を誘きだしたって訳です。」



『どうやってだ?』



「それは言えません。

今は、携帯電話が有るから、どうとでも出来るんですよ。」



『詳しい話を聞かせて貰わなければいけなくなりましたね。

済みませんが、高山さんも署までご同行願わなければなりません。』



「そうですか。分かりました。」



と言いながら、力を解放して



<今回の事件は、平田刑事の活躍で見事逮捕が出来ました。
私は、何の関係も有りませんのでお忘れください。
それでは、署に戻って彼らの取り調べを行って下さい。>



と、平田刑事の頭の中へ命令すると、平田刑事は踵をかえして渋谷署へ戻って行った。



ホッとした俺は、車に乗り込み帰宅した。時間はもう朝方の5時半を過ぎたところだ。



いよいよ明日は、アボジ(親父)達がハワイから帰って来る日だ。



あぁ、ちょっと疲れたなぁ……。




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