CHANCE 2 (後編) =Turbulence=
明けて11日目
今日は、第8関門が行われる日だ。
俺を含めた16名は、早朝から会場に集まり、本日の課題の話で盛り上がっていた。
一体どんな課題なんだろうかと、皆それぞれ予想以上したりしているが、結局9時に成らないと答えは出ない。
そして9時
会場内に響き渡る事務的な放送
《 All the members have the durable performance of the score passed from now on carried out by a fugue system for 8 hours. 》
(今から渡す楽譜を、全員が遁走曲方式で8時間耐久演奏してもらいます。)
この異様な課題に、場内がざわつき始めた。
スタッフが数人やって来て、番号を書いた楽譜を配っていった。
何と、俺が一番だ。
譜面の中は、コーダ1からコーダ4まであって、ダルセーニョまでいくと、またコーダ1から4まで繰り返しと、10分くらいの曲を延々とリピートしていくようになっていた。
「こりゃ大変だなぁ…」
と独り言を言ったら、隣に立っていた野村さんも溜め息をついていた。
『オゥ、ノー!
4年前と一緒じゃないか!』
ザ・モンスターズのジムが嘆いている。
経験者の嘆きは、かなり堪える。
「相当辛いんでしょうね?」
『あのジムを見ていたら、8時間後の俺は立っていられるんだろうか?心配だ!』
「俺もです。」
《 Then, I have you start from the person of No. 1.
The next person needs to enter in order after 4 vibrant tunes. 》
(それでは、1番の人からスタートしてもらいます。
4小節後から次の人が順番に入っていって下さい。)
全員が、それぞれ各自ブースに入ってヘッドフォンを着用していく。
頼りに成るのは、ヘッドフォンから聴こえて来る、自分の1つ前の演奏者の音と、メトロノームの音だけである。
そしてカウントダウンが‥‥‥3.2.1.start!
いよいよ始まった8耐フーガ(遁走曲)演奏
途中休憩は、各自2回のみ
1回10分のトイレ休憩だけである。
抜けるタイミングと、戻って復帰のタイミングも、審査の査定基準に含まれるそうだ。
座ってしまったり、ミスタッチをした人は、その時点で減点である。
減点方式で、最終的に減点の多い人ワースト2名が脱落する事となる。
誰がミスタッチをしているのかは、審査員しか分からない。
だから、自分が今どの位置にいるかは詳しく分からない。
だから、最後まで手が抜けないのである。
オートバイレースの様に、目で見て分かるものではない。
兎に角、頑張ってやるのみだ。
3時間経過したところで、腕を休ませるのも兼ねて、俺は10分間のトイレ休憩に入ることにした。
休憩の合図として、コーダ4手前で、ブース内に有るフットペダルを踏む。
そして速やかにフェードアウトした。
取り敢えずトイレに行き、ぬるま湯で手を温めながら軽く手首までマッサージをしていく。
その後、休憩室に有るミネラルウォーターのペットボトルを手にとって水分補給を済ませたら、その時点で既に6分経過していた。
直ぐにブースに戻って、再びヘッドフォンを着用した。
ヘッドフォンから流れてきた曲のタイミングと巧くシンクロさせながら、フーガのメロディーを奏でていった。
序盤は難なくこなせたが、問題は中盤以降である。
俺はトイレ休憩を1回使ったから、後1回のみだ。
本当に辛くなるまで、休憩は我慢しておかないと、後半から終盤にかけてミスタッチをしてしまう危険性が高くなってしまう。
ブース内に有るカウントダウンタイマーが、残り時間3時間半を表示していた。
あぁ、こりゃ大変だなぁ!
テレビクルーは、静かに各ブースを撮影していた。
ソナは、今の俺を観ているだろうか?