CHANCE 2 (後編) =Turbulence=
4. Investigation
ジムの悲痛な叫びを聴いた俺は、受話器を置いて直ぐに斜め向かいのジムの部屋にむかった。
そこには、ガックリと項垂れてベッドの端に腰掛けているジムの姿が!
「どうしたんだいミスター ジム?」
『遣られたよ!』
「何を遣られたんだい?」
『キャッシュカードや、クレジットカード、トラベラーズチェックなんかは全く手を着けてないんだが、携帯電話やデジカメ、MP3プレイヤーなんかの身の回りの物と現金まるまる10,000$程持っていかれたよ。』
「大変じゃないか?!
警察には?」
『さっき電話したよ。』
「ところでミスタージム、あのメタルフロントのギターは?」
『オーマイガッ!
遣られた~!
あれが一番大事なやつなのに。』
マジでへこんでいるので、これは助けてあげなきゃ。
俺は、久しぶりに封印の指輪を外して、ジムのビジョンを観ることにした。
かなり酔っぱらっていたジムは、金髪の若い女性2人と共に部屋に入って、どうやら飲み直すみたいだ。
一人の女性が話を盛り上げながらも、どんどんお酒を勧めていた。
「かなり飲まされたんでしょ?」
と、白々しく聴いてみたが、すでに酔っぱらっていたので殆ど覚えてなかった。
『頭痛ぇ~!』
「無用心でしたよね。
それにしてもギターを持って行くかねぇ!」
『 自慢したからなぁ!
トニーゼマイティス氏がハンドメイドで作ったZEMAITIS のメタルフロント最後の作品で、超レアなギターだから、今なら20万ドル以上するんだぜって話したからなぁ。』
「そんなにするんですか?
確かに、トニーゼマイティスの手作りは高いって聴いてたけど、日本円で2,000万円って、通常彼の作るメタルフロントのカスタムメイドだと200~300万円程なのに、桁が1つ違うなんて!」
『実は、あのギターは、彼の遺作である上に、彼の中でも最高ランクに入る逸品なんだよ。
チャンス君も聴いただろう、あのギターの音色?』
「確かに、歪みもなく、とっても素直なストレート感の有る音色だったよ。」
『トニーの作るギターは、殆ど歪みが無いのが特徴だが、逆に言えば単調なチープな音に成りやすいんだ。
でも、あれは歪みが殆ど無い上、音に深みがあり、低音のバスレベルを上げてやると、強烈にインパクトの有る音に化けてくれるんだ。
そして10数年前に、トニーが亡くなると価値はどんどん上がり、気が付けば買った時の値段の10倍以上になっていたんだ。』
「でも、まさか彼女達が泥棒だったとはなぁ。」
『多分、俺は睡眠薬を飲まされたと思うんだ。
俺、自分で言うのもなんだけど、あれくらいのビールやワインで意識飛ばした事無いんだ!
底無しのジムって言われるくらい酒には強いんだぜ!
それが記憶を飛ばすとは‥‥‥‥
絶対あり得ない!』
「じゃあ、まだ1週間有るから、それまでにギターを取り戻しましょうか!
俺が必ず取り返してあげるよ。」
と、ジムの肩に手を置き、自信満々の笑顔でジムを安心させた。
そして、彼女達が飲んでいたワイングラスに残る残留思念から探り始めた。