CHANCE 2 (後編) =Turbulence=
5. Episode in the sky
ホテルから18マイル、タクシーで30分程走ると、JFK国際空港が見えてきた。
時刻は、現在午前12時。
搭乗の手続きを済ませ、出国ゲートへ!
Duty-Free Store(免税店)で、買い忘れた妹へのお土産を買って、直ぐに搭乗口前のコーヒーショップでカフェオレとパストラミサンドを注文して、空いているテーブルで出発まで時間を潰していた。
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機内に入ってボーディングパスを呈示して、ファーストクラスに案内された。
午後1時15分、定刻にテイクオフした日本航空005便、到着は翌日の午後4時25分だ。
時差が有るので、これから実質14時間10分のフライトだ。
俺は、昨晩お別れパーティーだとかで、今回知り合ったジムとザ・キングバードのメンバー、ジャッキーとキャロル、ジェイクと彼女のシンディ達、総勢20人で、朝までどんちゃん騒ぎとまではいかないが、それでも結構飲んで騒いで歌って踊ってのパーティーだった。
しかも、全部俺の支払いだ!
昨晩19時から飲み始め、気が付けば朝7時過ぎてた。
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『チャンス、飲んでるか~?』
ロバートの大声が、バーの中に響き渡る。
ハーレムに在るこじんまりとしたバーを借りきっているのだ。
「飲んでますよミスターロバート!」
『このロブスターは、ジェイクの親父さんが市場で手に入れてくれた新鮮なやつだから、たっぷり食ってくれ!』
「ジェイク、親父さんにサンキューで~す!」
『キャロル、なんか歌えよ?』
「じゃあレディガガの曲、歌~う~!」
『あたしも一緒に歌うよ~!』
「もうお腹いっぱいだよ!」
『情けねぇな~!』
思い出したら、お酒が戻ってきそうな感覚に陥って、さすがに飲み過ぎたと反省しておとなしく寝ることにした。
ブランケットを借りて頭から被り、窓を塞いでゆっくり目を閉じた。
途中食事で起こされたが、直ぐにまた寝た。
たっぷり12時間寝て、漸く体からアルコールも抜けて、偏頭痛も治まった。
現在時刻は、翌日の14時半過ぎである。
後2時間程で成田に到着だ。
そろそろカムチャッカ半島を越えて、北海道上空を飛ぶはずだ。
が、いっこうに見えてこない。
と、その時、
【機長の畑山です。 本機は現在、ハイジャックされました。 ロシアはハバロフスク空港に向けて飛行中。《インカムをよこしな! 我々は、過激派組織ロシアの赤サソリだ! 悪いが全員、人質になってもらう。 今から全員でハバロフスク空港に行って貰うからな! 余計な真似をしたら、全員死んでもらうからな! ロシア政府が我々の要求をのむまで、お前達は人質のままである。》 】
あぁ! また面倒臭い事が‥‥‥‥
何でこうも俺の回りは事件が多いんだ!
早く帰って風呂に入ってのんびりソナと過ごしたいのに!
鬱陶しい事、この上無い!
大体ハイジャックなんて、今時あまり成功例無いし、何人居るんだまったく!
仕方がないので、コクピットへと向かった。
途中、キャビンアテンダントが制止してきたので、彼女の頭の中へ直接、
<おれが見えない!>
と指示すると、彼女は俺に気付かず通り過ぎて行った。
数分後、コクピットまで後3メートルのところに止まり、扉の前にショットガンや拳銃を手にした3人のロシア人と向かい合った。
3人の頭の中へ同時に
<武器を棄ててじっとして動くな!>
と命令すれば、素直に武器を置いて立ち尽くしている。
一番右端の男の頭の中に
<こちらへ来い!>
と言えば、素直に遣ってきた。
あらかじめC.A. に持ってきて貰った緊急時に使用する丈夫なロープを取りだし、両手足を結んでいった。
同じように、残りの二人も縛り上げ、3人に
<お前達は全員で何人機内に居るんだ?>
と質問したら、全員が
『俺達を併せて全部で4人乗り込んだ。』
と証言した。
残りの一人がコクピットの中で、機長に命令してるのだろう。
仕方がないので、コクピットの前まで遣ってくると、ドアに手をかざしてロックを開くイメージを頭の中で描いた。
すると、静かにカチャリと言う音と共にロックが解除された。
ソォ~っと中を覗くと、機長の頭に拳銃を突き付けた、髭モジャの40才位の男性がいた。
多分、この男がリーダー格なんだろう。
その男の頭の中へも、
<武器を置いてコクピットから出てこい!
そして、出て来たらそこから動くな!>
と指示した。
コクピットの扉を開けた瞬間、俺の顔を見て大きく目を見開いて驚いた男も、結局動くことが出来ないので、簡単に両手足を縛り上げ、4人全員床に寝転がらせた。
そして、コクピットに入り機長の頭の中にも、
<ハイジャック事件は無事に解決した。
直ちに成田空港に向かえ!>
と指示をした。
全部の武器を集めると、ショットガンが2丁、ライフルが1丁、拳銃が1丁、手榴弾が10ヶ、ナイフが3本も出てきた。
こんなに沢山の武器を機内に持ち込める訳が無い!
俺は、手引きした者が居ると確信した。
リーダー格の男のビジョンを覗いてみたら、案の定この機のパーサーとグルであった。
直ぐにパーサーを探したところ、なに食わぬ顔をして、客席を徘徊していた。
俺は、直接彼の頭の中へ
<ファーストクラスへ来い!>
と命令した。
何も知らずに遣ってきたパーサーを、俺はいきなり気絶させて縛り上げた。
この男が手引きしたから、ハイジャックが実行されたのだから、これくらいのお仕置きは当たり前だ!
5人共暴れないように大人しくしているんだと、頭の中に命令しておいてから、もう一度機長の頭の中へ
<ハイジャックが失敗に終わり、犯人は逮捕されたこと、成田空港に向かっていることを機内放送して下さい。>
と指示を出してから、犯人は俺の目の届くところに転がらしといて、ゆっくりとコーヒーを飲みながら、ヘッドホンをして音楽を聴きながら、成田迄の時間を過ごした。
機長があらかじめ警察への通報要請をしていたので、到着と同時に機動隊と警官が数十名突入してきて、5人は連行されていった。
俺は素知らぬ顔で入国の手続きを済ませて、空港を出るとタクシーに乗り込み、我が家に向かった。