CHANCE 2 (後編) =Turbulence=






朝の10時丁度に新星グループの子会社、ニュースターエキスプレスのトラックがやって来た。



ニュースターエキスプレスの主な業務内容は、コンサートやライブやイベント時に、楽器や音響機材等の運搬で、それと平行して引っ越し業も遣っているのだ。



って言うか、今では引っ越し業務がメインで、コンサートやライブイベントなんかは、おまけみたいなものである。



このニュースターエキスプレスは、都内に10ヶ所、全国的には120ヶ所の営業所を持つ、りっぱな引っ越し屋さんなのだ。



最初は、アボジ(親父)が韓国から届いた荷物を毎回高い金額を払って持ってきて貰うのが馬鹿らしくなり、自社のトラックを購入したのが始まりだ。



そのトラックで、空港から荷物を運んだり、ライブ会場まで機材運搬したりしていたが、いちいち自分で運転するのが億劫になり、運搬専門のスタッフを雇い入れたのが、今のニュースターエキスプレスの社長で、在日韓国人の大西 智(通称名おおにしさとる)、本名が【鄭 智熏(チョン・ジフン)】 だと俺のアボジが言っていた。



最初名前を聞いた時には、なかなか良い名前だなぁとしか思わなかったが、今となってはなかなか面白い名前である。



なんといっても、あの有名な韓国の歌手のレイン(ピ)氏の本名と同姓同名なんだから。



だから、最近ではアボジは鄭社長の事をピ社長って呼んでいる。



当時、まだプレハブの事務所にトラックが1台とアボジの車の2台しか無かったのに、3年後には、その鄭(チョン)さんに1,000万円の資本金を渡し、



『智熏君(当時、22才)、新星MUSICの子会社を作るから!

トラックあげるから、運送屋さんを始めて。

名前も決めてあるからね。

新星だから、ニュースターな!

だから、ニュースターエキスプレスって社名で、君の名前で会社登録して来たよ。

子会社って言っても、独立採算制にして、うちには年間の総売上の5%だけ毎年入れてくれたら良いから!

この資本金は、俺からのプレゼント。

代わりに、会社の株の25%は俺が持ってるから。

智熏君は26%以上持っといてな。

そうしたら、智熏君と俺の持ち株で51%以上になるから、取られたりすること無いだろ。

まぁ、智熏君が他の株主と併せて51%以上にして、俺から会社を持っていっても構わないからね。

君にあげた会社だから。

大きく手を拡げるのも、倒産させるのも智熏君次第だから!

俺は智熏君が気に入ったから、チャンスをあげるよ。

頑張れるかい!?

って、何泣いてるの!?』



「高(コ)社長、何で俺みたいな高校中退した奴に、ここまでしてくれるんですか?」



『俺みたいな!なんて言うなよ。

智熏君は、俺が韓国から来てプレハブからスタートした会社なのに、文句も言わずに、給料が遅れても少なくても一生懸命に無事故無違反で毎日運搬業務を全うしてくれたじゃないか!

それに、まだ22才なんだから、失敗を恐れずに精一杯遣ってくれたら、お互い成長できるじゃないか。』



「でも、こんな大金どうしたんですか?

新星MUSICのタレントは、まだ殆ど稼いでないからお金の遣り繰りも大変なのに‥‥‥」



『何言ってるんだ?

智熏君は、知らないのかい?

これでも俺はね韓国に新星MUSICの本社を作ったから、地元ではチョー有名人で、本社にはタレントが20人以上第一線で稼いでくれてるんだから。』



「え~ぇ!

韓国に本社!?

いつの間に?」



『去年、3ヶ月程韓国に帰って居なかっただろ!?』



「はい。

何でも、大事な人と会ってくる!って言ってたような‥‥‥」



『あぁ、その大事な人って言うのが、今本社にいる副社長だ。

まぁ、従弟なんだけど頼れる奴でな、元々他の芸能プロダクションでチーフをしていたんだが、引き抜いてきたんだよ。

それに、俺も一応韓国で歌手デビューしてたから、色んなコネも有ったから、会社を作って来たよ。』



「何で後から出来たのに、こっちが日本支社で、向こうが韓国本社なんですか?」



『それはまぁ、その方が都合が良かったからなんだ。

税金対策とか、色々な!

俺は韓国人だろ!

だから、パワーバランスを考えると、これから何十年か先、必ずその方が巧く事が運ぶと踏んでの韓国本社なんだ。

それから、新星MUSICって会社も、子会社の1つになるから。って言っても新星MUSICがメインになるんだけれど、今度から新星グループが母体になって、その中に新星MUSICやニュースターエキスプレスが在るって事だから。』



高 賢主(コ・ヒョンジュ)25才にして、新星グループの会長に就任。



本社は総勢72人、支社は総勢36人の合計108人が、新星グループ創業時の人数で、そのすべてが今もなお現役で一人も欠けずに頑張っているのだ。



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