CHANCE 2 (後編) =Turbulence=





点滴が終わり、赤ちゃんのエコー写真とお薬を貰い、病院を後にした。



『オッパ、何かまだ信じられないよ。

この写真の小さい豆粒みたいなのが、私達の子供だなんて嘘みたい!』



「どんなに小さくても、大事な命なんだって考えさせられるよ。

この赤ちゃんの為にも、しっかり食事して、元気になってくれよ。」



『うん。』



「男の子だったら、やっぱりギター遣らしたいなぁ~♪」



『女の子だったら、出来るだけ小さいうちから料理に興味を持たして、私の二の足は踏ませないんだから!』



「ハハハ……!

そうとう苦労したんだな。」



『そりゃそうよ。

オンマ(ママ)やお手伝いさんにお願いして、漸くある程度の物なら作れるようになったけど、最初はご飯の炊き方だって知らなかったんだから!』



「そんなに威張って言う事でも無いけどね!」



『料理のちょっとしたコツがわかり出した頃から、料理が楽しくなったんだから、女の子が産まれたら、そのコツを先に教えて料理に興味を持たせる方法を取って、私が1から教えるんだからね。』



「1から教えるのかぁ…

一か八かでは無いんだよね!?」



『オッパヒドイ……』



「冗談冗談!

まぁ、これからの新しい楽しみも出来たことだし、それまでしっかり栄養を取っときなよ。

そろそろ昼時だから、軽く蕎麦かうどんでも食べに行くか!?」



『まだ欲しくないよ。

点滴でお腹イッパイになっちゃったよ。』



「そっかぁ。

じゃあ、フルーツだけ買って帰ろうか。」



いつもの近所のスーパーで、軽く買い物を済ませて帰宅した。



リビング奥のガラス張りの部屋では、殆ど成犬と同じ大きさにまで成長した愛犬の巨連(コヨン)が、暖房の効いた暖かい犬小屋でボールを蹴ったり加えたりして遊んでいた。



秋田犬のオスで、丁度一才に成ったばかりだが兎に角デカイ!



『コヨン、ただいま!』



と言うと、ソナの声に反応してリビングとの境まで遣ってきてブルンブルンと尻尾をフリフリしている。



「そろそろこいつの飯をしてやらないとな!

ソナは、取り敢えず座ってゆっくりしてな。

コヨンの飯は俺が準備するから。」



『有り難うオッパ。

コヨン、お座り!』



大きな犬小屋からリビングに入ってきたコヨンは、ソナの一言で素直にソナの横に寄り添うようにお座りをしている。



その間に俺は、コヨンの小屋の中のトイレを水洗に流して、綺麗にしてから飲み水とエサをセットして、



「コヨン、おいで!」



と、俺が呼べば、尻尾をフリフリしながらリビングから繋がっている犬小屋に遣ってきた。



コヨンに、おあずけ!をさせてから、ヨシ!と言うと、大きなタライの様な餌入れに顔を突っ込んで、ムシャムシャと食べ始めた。



『オッパ、コヨンって凄い食欲だね!

羨ましいわ!』



「そうだね。

妊娠するまではソナも凄い食欲だったのになぁ。

何か欲しいものはないかい?」



『何も要らないよ。

……そうだ、ムルキムチ(水キムチ)だったら食べられそう。』



「そうか、じゃあちょっと待ってろ。

持ってきてあげるから。」



と言うと、キッチンに入って冷蔵庫の中からムルキムチを出して、器に入れてスッカラン(スプーン)と一緒に持ってきた。



それを受け取ったソナは、ムシャムシャと食べ始めたが、二口ほどで止めてしまった。



『もういいわ。

まだお腹イッパイみたいな感じで何も欲しくないわ。』



「そっかぁ。

じゃあちょっと横になって休んでてな。

俺は、地下のスタジオに居るから、何か有ったらインターフォーン鳴らしてな!」



と言って、ソナを寝室で寝かせてから、犬小屋のドアもロックして、スタジオに降りていった。



この正月休みの間に、5曲作らないといけないのだ。



先月の年末に7曲を完成させたが、ニューアルバムには15曲収録しないといけなくて、去年の夏に作った3曲とを併せても、後5曲なのだ。



練習期間も入れると、今週中に曲を仕上げないと間に合わないかも……!



< 340 / 371 >

この作品をシェア

pagetop