ぼくのいないナツ
「ありがとうございます」
ぼくは楓さんに頭を下げた。
「ん、まぁいいってことよ」

ほれ、食え。と下げた首の後ろにちょうどガリガリ君を当てられた。

「それ食って落ち着いたらいい」

「はい」

「君は顔に出ないタイプだからな。冷静にみえるが結構ショック受けてるんだろ?」

ご名答だ。

「まぁそれこそが今回の事件の引き金な気がするが」

「え?」

「あらゆる感情が外にあんまり出てないんだな君は」

ガリガリ君の木の棒で指される。

「そんなんじゃ伝わらないんだけどね」
「どういうことですか」

感情表現が得意じゃないのは幼い頃からいわれているから今更いい。しかし今回の事件の引き金というのが気になった。
「昨日のことだわ」
「ナツとここにいたわけ」

「アキの話もした」
「……昨日までは記憶があったんですね」

「そ」

「で、あたしがそろそろアキも帰ってくるんじゃないとかいったわけ」

「はい」

「ナツはそうですねーとかいうけどちょっと元気ないのね。だからいろいろ聞いてみたわけよ」

「……はい」

「あんた1ヶ月連絡しないとかふざけてんの」

「……いや、何も考えてなかったです」
「しかもナツに一言もなく勝手にバイトいくとか」
「なんかいったほうがよかったですかね」

「……あんたはだいぶずれてるわ」

楓さんは呆れ顔だ。
「しかもなんで付き合ってんのに名字でよんでんの?」

「……タイミングがつかめなくて」

「ナツがちょっと名前でって提案したら恥ずかしいからって断られたってまじ?」
「……はい」
楓さんが手で顔を覆う。
「思ってたよりひどかったわ」

「……」
「カップルなのにぎこちないなぁと思ってたけど」

ここまでとはね…と楓さんは腕組みをした。
「で、ここからが重要」
「はい」
「ナツが昨日いったわけよ、橋本くんのことすごく好きだけど辛い。橋本くんの記憶だけ無くなったら楽になれるかも知れないですねって」
「……」

「そうだねー、とかいって笑ったんだけどさ」

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