ぼくのいないナツ
楓さんが頭を掻く。
「まさかと思うよ」
「……まさか」
ははは、と僕たちの乾いた笑いが研究室にむなしく響いた。
「いや、わりとマジでさ」
真剣な顔で楓さんは続ける。
「ナツはおもいつめるタイプだしね」

「君との付き合いに結構悩んでたんじゃないの」
初カレだしねーと楓さんは付け加えた。
「ただでさえ君はなに考えてるかよくわからんし」

「で限界がきて」

「君のことを記憶から忘却した」

楓さんの言葉には妙な説得力があった。
「あたしはこの推理いい線いってると思うわー」

うんうん、と楓さんが頷いた。

「ま、今夜ナツに会ってみたらいろいろわかる」

「そうですね」

そう。ナツと会わなければ始まらない。
とにかく夜まで待とう、そう決めた。
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