Four Tethers〜絆〜
「あなたの言いたい事、素直にちゃんと話してみて? きっと、分かってもらえるから…」

 綾はふと、沙織の変化に気が付いた。
 沙織の身体の周りに、不思議な力を感じる。
 それは、諒の持つような攻撃の力ではなく、悠の持つような結界の力でもない。

(…何だろう…)

 今までに感じたことのない感覚。
 強いて言えば、悠が使う“癒し”の力に似てなくもないが…それとも少し違うような気がした。

「大丈夫だから…ね?」

 沙織はそう言って、女の子の手を握った。

(………!)

 綾は少し、目を見張る。
 女の子に“取り憑いて”いたものが、一瞬にして消えたのだ。

「…あれ…ここ、どこ?」

 女の子は、初めて口を開いた。

「お腹、空いてない?」

 沙織は笑って、女の子に聞いた。
 正気に戻った女の子から家の連絡先を聞き出して、一時間もすると母親が迎えに来た。
 その間、女の子は沙織が作った海老ピラフを、美味しそうに食べていた。
 母親は沙織にお礼を言って、女の子を連れて帰って行った。

「さぁて、これで本当に今日の営業は終わりね」

 う〜ん、と伸びをして、沙織は言う。
 だが、綾にじ〜っと見つめられていることに気が付いた。

「…な、何よ、綾?」

 心なしかたじろいで、沙織は聞く。

「沙織さ〜…ホントはさ〜…」

 そう言い掛けて、やめた。
 代わりに出るのは、大きなため息。

「何でもない。あたしの夕メシはぁ?」

 腹減った〜、と言う綾に、沙織はすぐに夕ご飯の支度に取り掛かる。

「今日は材料が余っているから、夕食は店のメニューね」
「うん、あたしスパゲッティがいい」
「かしこまりました♪」

 鼻歌交じりに料理を始める沙織を、綾はカウンターに頬杖をつきながら見つめている。
 沙織の、あの力は一体何なんだろう。
 そう本人に聞いたところで、まるで分かっていないだろう。
 沙織は無意識に、その能力を使っている。
 誰にも使えない、特殊な能力を。
 でもまだ、このままそっとしておく事に、綾は決めた。
< 101 / 156 >

この作品をシェア

pagetop