Four Tethers〜絆〜

ACT.4…『標 的』

 気が付くと、見慣れない部屋の中だった。
 大きな窓からは、赤く染まった空が見える。

(うそ…もう夕方!?)

 綾は周りを見回した。
 電化製品は一切なく、フローリングの床にローソファーとテーブルが置いてあるだけだった。
 どうやら、あのままこの部屋の中に引きずり込まれたらしい。
 体が重い。
 だが、手足は拘束されてはいなかった。

「やっば…沙織、心配してるよ」

 綾は携帯を手に取る。
 だが、機能は異常ないのに、通話することが出来なかった。

「…ダメか…」

 携帯をポケットにしまい、仕方なくソファーに座る。
 綾は煙草に火を点けて考えた。
 今朝、このマンションに美紀が入るのを見て、非常階段を使い結界が張ってある最上階まで登った。
 こんな弱い結界なら自分でも難なく解くことが出来るような気がしたのだが、この重々しい空気は、初めに見た時とはまるで違う。
 例え悠でも、そう簡単に解くことは出来そうにない、複雑で強く絡み合うような結界だった。
 部屋には自分一人。
 他には何の気配も感じられない。
 確かに、ここに引きずり込まれる前に美紀の声を聞いた。
 だが美紀は、ここには居ないのだろうか。
 違う場所まで連れてこられたのかと思い、窓から外の景色を見るが、間違いなく駅裏のマンションだった。

(…明日になれば、二人が帰ってくる)

 だが、結界のせいで自分の居場所が伝わらないかも知れない。
 携帯も繋がらない程の強力な壁のせいで、あの二人が自分の気配を感じることが出来るとは思えなかった。

「…あんま…状況よくないかも…」

 綾はがっくりとうなだれる。
 それにしても、このまとわりつくような淀んだ空気は何なのだろう。
 …まるで、見えない手枷足枷をはめられているような感じだった。
 何度が脱出しようと試みるが、外に出られそうな場所は全部、ぴくりとも動かなかった。
 窓ガラスすら割れない。
 しまいに疲れきって、綾は床に座り込む。
 まとわりつく空気が気持ち悪い。
 ここにいるだけで苛々する。

「なんだよこれ…」

 吐く息も荒くなっていた。外も徐々に、暗くなってくる。
 綾は窓際に座り込んだ。
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