Four Tethers〜絆〜
「あんたのバカげた考えについていく人なんているわけない」

 こんな男と、話をするだけ無駄だ。
 沙織はそう思う。

「みんな、僕についてくるよ。心に少し疑惑の種を植えるだけで、人間はすぐにその種を発芽させ、大きく育てる。気付いた時には自分がその種に食われる直前だ。俺は、その芽をそっと摘み取ってやる。すると…」
「最低ね」

 沙織は男の言葉を遮った。
 もう、一秒たりともこの男の言うことなんて聞きたくない。

「何を言ってるんだ?」

 余裕の態度を崩さない。
 男は、沙織に近寄るとその耳に口を近付け、囁く。

「キミも、僕と、同じだ」
「やめてよ!」

 沙織は立ち上がる。
 この男の言っていることは、まるで意味が分からない。
 最早、尋常ではない。
 …気持ち悪い。気持ち悪すぎて、胸がむかむかする。

「私は絶対にあなたなんかに関わらない。綾は何処なの! 教えなさい!!」

 怒りに任せて、沙織は怒鳴った。
 男はゆっくりと、窓の外に視線を移す。

「今ごろ綾、何をしているかな…優しい男と一緒に遊んでいるかな?」

 沙織は拳をぎゅっと握り締めた。
 出来ることなら、今すぐ殴り付けてやりたかった。

「僕ももう引き上げるよ。沙織のお友達が、ここの結界を破りかけているから」「待ちなさいよ!」

 店を出て行こうとする男に沙織がそう叫んだ時、その身体の周りを、ふわりと風が舞った。
 男は一瞬、立ち止まる。

「分かったわ」

 沙織は、男を睨み付けた。

「…大分力が使えるようになってきてるみたいだね。その力、是非欲しいな…」

 そう言って、男は店の奥に消えた。
 沙織はすぐに、エレベーターに乗り込む。

「沙織ちゃん!」

 下に降りると、悠がビルの中に入っていた。
 本当に結界は解けたらしい。

「悠くん早く! 綾は駅裏のマンション! 誰かに襲われてる!」

 沙織はすぐに、そう叫ぶ。

「先に行く!」

 沙織の声を聞いた諒が駅に向かって走りだした。
 沙織と悠も後に続く。
 だが、道行く人間全員が行く手を阻んだ。
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