Four Tethers〜絆〜
【第五章】

ACT.1…『疑 問』

 家に帰ると、沙織はブランデー入りの紅茶をみんなに入れる。
 一息ついてから、綾と沙織は、今日あったことをお互いに報告し合った。
 しばらくみんなは、黙っていた。

「これからどうするかねぇ…」

 その沈黙を破るように頭の後ろに手を組んで、綾が呟く。
 今回の敵の目的はおそらく、人間を支配すること…。
 だが、同じ人間の能力者が敵に回ることは、今回が初めてだと、悠は言った。
 そして気になるのは、綾があのマンションで聞いたという女の存在だった。
 少なくとも、主力の敵は二人いることになる。
 もうすでに、一樹とその女は行動し始めている。
 駅にいた人々皆が、すでに支配されていたのだ。
 かなりの人数だった。

「一樹は人間の心を巧みに操るわ…」

 沙織の能力を、一樹は欲しがっていた。
 そして、悠と諒の存在も知っていた。

「奴は必ず、また何か仕掛けてくる」

 悠が言った。

「とにかく、いつ攻撃されるか分からないから、単独行動は絶対に避けよう…特に」

 悠は綾を振り返る。
 だが綾はすでに、テーブルに突っ伏して眠っていた。

「まったく…諒、部屋に連れていってくれ」

 あれだけ強力な結界の中で暴れていたのだ。
 綾も相当疲れているのだろう。
 諒は綾を抱えて、リビングを出ていった。

「余程暴れたな、あいつ…」

 悠は苦笑する。
 今回は物理的な攻撃しか受けていなかったらしく、悠の癒しも必要なさそうだった。
 そして悠は、何か深刻な顔つきをしている沙織に気が付いた。

「どうしたの?」
「うん…」

 沙織の能力がまだコントロール出来ないのも、一樹は知っている。

「あいつ、それを探るために、私達を見張るようなことをしてたのかな…」

 あの男はこちらの、何を知っているというのか。

「俺は、あいつは何も知らないと思うけどね」

 悠は紅茶を一口飲んだ。
 沙織が不思議そうに悠を見る。

「何もかも知っているなら、人間を支配しようなんて思わないはずだよ」
「どうして?」
「どんな力を持ってしても、人の心を完全に支配することなんて出来ないからさ」

 そう言って、悠は笑った。
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