Four Tethers〜絆〜
 しばらくすると、シャワーの音と鼻歌が聞こえてくる。
 それ以外はこれといった会話もなく、リビングは静まり返っていた。
 沙織は、また読書とトレーニングを始めた二人を交互に見つめて、これからどうなるんだろう、と漠然とした不安にかられた。

(明日こそは、ちゃんと大家さんと話をつけなきゃね)

 そう、決意を新たにする沙織。
 そういえば…と、沙織はお風呂場のボディソープが切れていたのを思い出した。
 立ち上がって、買い置きを持って浴室へ向かう。

「ねぇ、これ…」

 軽くノックした後に浴室のドアを開けて、沙織はボディーソープを綾に差し出す。
 シャンプーをしていた綾は、泡だらけのまま振り返った。

「あ〜あんがと、切れてたんだよね、ボディソープさ」

 綾にボディーソープを渡し、沙織はその場に立ち尽くす。

「何?」
「あ、何でもない…」

 それだけ言うと、沙織はドアを閉めた。
 どういうことなんだろう。
 綾の背中全体に、火傷のような赤い痣がついていた。
 まさか、あの雨の日受けた傷というのは、あれだったのか。
 火傷にしては、あの雨の中この店にやってきた綾の洋服は、焼け焦げてなどいなかった。
 だとしたら、あの痣は一体、どうやってつけられたのだろう。
 本当に、この連中は一体何者なのだろうか…。

「沙織ちゃん、この本の続き…」

 リビングから顔だけを出し、そう言いかけて、悠は浴室の近くの壁に待たれかかったまま浮かない顔をして考え事をしている沙織に気付く。
 それを見て、悠は立ち上がると沙織に近寄り、申し訳なさそうに言った。

「本当に…訳が分からないと思うけど…ごめん、はっきり言ってまだ、俺達もどうしたらいいか分からないんだ」

 悠は珍しく神妙な口調だった。

「…この場所はさ、元々あのお婆さんが…」
「いいよ、悠くん」

 笑顔を作り、沙織は言った。

「はっきり言ってまだ全然あなた達のこと信用できないけれど…悪い人たちじゃないっていうのは分かるから」

 悪い奴らなら、もうとっくにこの家から追い出している。
< 12 / 156 >

この作品をシェア

pagetop