Four Tethers〜絆〜
(どんな力を持ってしても…)

 沙織は、心の中で繰り返す。
 何故か、この言葉だけは、忘れたくないと思った。

「まぁ、今日はもう遅いから、話は明日にして休もうか」

 悠は飲み終わったカップをキッチンに持っていく。

「明日片付けるから置いといて、悠くん」
「悪いね、沙織ちゃん。じゃあお言葉に甘えて」

 お休み、と言って悠は部屋に入っていった。
 沙織も休むことにする。

☆☆☆

 その夜、沙織はベッドの中で、なかなか寝付けずにいた。
 ずっと、心の中に引っ掛かっている言葉。

『キミも…僕と、同じ』

 一樹が言ったこの言葉が、どうしても耳から離れない。
 何故か沙織は、一樹が言ったこの言葉を、みんなに報告することが出来なかった。
 あんなヤツと同じだなんて考えたくもない。
 だがもし、同じと思えるところがあるとしたら。

(私の…能力…)

 一樹は、あんなに巧みに結界を操ることが出来る。
 沙織は、こちらとあちらの空間をコントロールすることが出来る力じゃないかと、いつか悠は言っていた。
 だとしたら…。
 同じというのは、能力のことなのだろうか。

「………」

 沙織は、布団の中で寝返りを打つ。
 一体何の為に、こんな力があるのか。
 出来ることなら、前みたいに何も知らないまま、喫茶店のオーナーでありたかった。

(ホントに…?)

 そんな考えが頭をよぎり、沙織は自問自答する。
 怖いのは、何も知らないということ。
 もし、あの雨の日、綾がここへ来なかったら…。
 そして、悠や諒と出会えなかったら。
 本当に、何ひとつ知ることが出来なかった。
 ――自分の“能力”について。
 それまでは、こんな世界があることすら分からなかった。
 まだまだ知らないことはたくさんあるが。

「ホントに…」

 自分の“能力”とは、一体何なんだろう。
 自分一体、何の為にここにいるんだろう。
 そんなことをずっと考えて、沙織はその夜、眠れずにいた。
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