Four Tethers〜絆〜
☆☆☆

 次の日、いつものように店を開ける。
 が、いつにも増してお客さんが来ない。

「あんのやろ〜…今度は営業妨害かよっ!」

 綾が怒りまくっている。

「…あんまりいつもと変わらないような気もする…」
「…そーだな…」

 微妙な表情を浮かべているのは悠と諒だ。

「失礼ね、二人とも」

 膨れっ面で二人を軽く睨み付ける沙織。
 天気予報は曇りと言っていたが、今にも雨が降り出しそうな気配だった。

「どったの沙織。元気ないみたい」

 綾は沙織の顔を覗き込んだ。

「昨日よく眠れなくて…」

 沙織は苦笑する。

「睡眠不足はお肌の敵だよ? もう若くないんだからさ」
「同い年の綾に言われたくないわ」
「あたしは昨日ちゃんと寝たも〜ん♪」

 機嫌よく言う綾に、沙織はボソッと呟く。

「そりゃ…寝たでしょうよ…」

 それだけ疲れていたのだから。
 いつ戦闘になるかわからない時によく普通にしていられるものだ、と沙織はつくづく感心してしまう。

「諒〜暇だから将棋でもやる? はさみ将棋」

 綾はどこからか将棋盤を持ち出して来た。

「やだよ。面倒臭ェ」

 コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた諒は、目も上げずに綾の申し出を断った。

「俺が相手しようか、綾?」

 代わりに悠が言う。

「やだよ。悠作戦が姑息なんだもん」
「戦術に長けている、と言ってほしいな」

 そんなみんなのやりとりを、笑いながら見つめる沙織。
 だが、一樹の事が頭から離れない。
 自分の能力を引き出す事が出来る、と一樹は言っていた。
 悠達の傍にいるよりも…。
 一樹は自分の能力を欲しがっている。
 だが、意にそぐわないなら躊躇うことなく、始末するだろう。
 実際、綾が殺されかけているのだ。
 これから、そんな戦いが始まるのか。
 そんなことになったら、自分には何が出来るんだろう。
 大好きなこの場所と、かけがえのないこの三人を、どうやったら無事にいさせることが出来るんだろう。
 もう、何もやれずにただ黙って見ているだけなんて嫌だ。
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