Four Tethers〜絆〜

ACT.2…『奇 襲』

 お昼を過ぎる頃には、とうとう雨が降り出してきた。
 沙織は、窓から海の方を見つめている。

「お客さん、来ないね…」

 悠がカウンターに座り、煙草に火を点けた。
 綾と諒は午前中ずっと将棋をさしていたが、結局トータルで引き分けて決着がつかなかったらしく、今は目の前の砂浜で二人で大きな砂山を作って遊んでいる。

「そうね…」

 どうしてあの二人は、雨の中外で遊ぶのが好きなんだろう…と疑問に思いながらも、返事をする。
 だが沙織はふとその時、何か聞こえたような気がした。

「なんだろう…?」

 綾と諒は変わらずに遊びに夢中だし、悠は目の前で、雑誌を読んでいるし。
 それでも、頭の中で、小さい声がざわざわと聞こえてくる。
 …気のせいではなかった。

「ねぇ、何か聞こえる?」

 沙織は悠に聞いた。
 だが悠は何も答えない。

「…悠…くん?」

 何かが違う。
 沙織は、悠の肩に触ろうとした。
 だがその手は、悠の体を“すり抜けた”。

「……!?」

 慌てて手を引っ込める沙織。
 よく見ると、綾も諒も、全く動いていない。
 沙織は思わず後退りして、後ろの食器棚にぶつかる。
 あまりの異質さに、頭の中は真っ白で何も考えることが出来ない。

「四人一緒にいればいいって訳でもないんだけどね」

 不意に声がした。

「あなた…!」

 店の中に、一樹が立っていた。
 この空間全体に、薄いもやがかかっている。
 はっきり見えるのは、一樹と沙織の姿だけだった。
 その時初めて、沙織は一樹がこの空間に結界を作り出したことを悟る。

「こんな結界を張ることなんて、僕には簡単な事なんだよ」
「……」

 沙織は気付けなかったにしろ、悠や諒も全く何も感じなかったのか。
 一樹の力は、これほどまでに強力なのだろうか。

「…本当に、まだ何も知らないんだ」

 うす笑いを浮かべながら、一樹は言った。

「それとも“教えてもらえない”だけかな」
「…何が、言いたいの?」

 沙織は聞いた。
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