Four Tethers〜絆〜
「沙織にもこんなこと、簡単に出来る筈だよ。僕は、教えてやりたいだけなんだ…本当の自分っていうやつを」
「………」

 本当の自分…。
 本当の、自分の能力ということなのだろうか。

「キミのお友達はもう、沙織の能力を知ってるんじゃないのかな。あまりに強力な能力だから、敵に回らないように、わざと隠してるんじゃない?」

 相変わらず、この男は苛々させる。

「そんなこと…あるわけないじゃない!」

 沙織は声を荒げて一樹の言葉を否定する。

「一番怖いのは、無知ということだよ、沙織」

 一樹はそう言いながら、沙織に近づいてくる。
 逃げようとするが、体が動かなかった。
 沙織の目の前で立ち止まると、一樹はゆっくりと言った。

「いつでも僕の所へおいで、沙織…。でも、あと3日しか待てないよ…」

 行く訳がない。
 そう思いつつも、3日という期限が気になった。

「3日…どうして…?」
「僕が本当に動くのはその日だからさ」

 沙織は何も言えない。
 一樹は笑って、店を出ていく。

「誰にも、僕の邪魔はさせないからね。沙織の大事なお友達にも、よく伝えておいてくれるかな」

 そんな言葉を残して、一樹は消えた。

☆☆☆

 一樹が消えたのと同時に、空間はもとどおりになっていた。
 霞んでいた店の中も、悠の姿も、全て元通りになっている。

「そろそろ本格的に降ってきたな…そろそろあいつら呼んでくるよ、沙織ちゃん」

 雑誌から目を上げて、悠は言った。
 だが、少し沙織の様子がおかしいことに気付く。

「どうかした?」
「あ、うん…大丈夫」

 悠の言葉に頷きながらも、沙織は少し疲れたから、と自分の部屋に戻った。
 残された悠は、それを訝しげに見つめた。

「どうした、悠? 沙織は?」

 帰ってきた綾が、声を掛ける。

「…いや。疲れたから少し休むって言ってたよ」

 入り口の方を振り返り、悠は答えた。
 だが、店の入り口付近のスペースの異変に気付いた。
 綾と諒は、水滴を払いながら未だに店の入り口に立っている。
 だが、中へ続くスペースの床に、濡れた足跡がついていた。
 雨が降り出してから、お客さんは来ていない。
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