Four Tethers〜絆〜
「…俺の知らないうちに、この店に来客があったみたいだな」

 綾と諒は、悠の視線の意味に気付く。
 こんな奇妙な訪ね方をしてくる客の心当たりは、一人しかいない。

「あいつか…!」
「待てよ、綾」

 そう言って沙織の部屋に行こうとした綾を、悠が止める。

「なんだよ!」
「奴が沙織ちゃんに何を言ったか分からないけど、今は様子を見た方がいい」
「なんでだよっ! あいつまた、悩ますつもりかよ」

 それでも動こうとする綾の腕を、諒が掴んだ。

「…俺も悠に賛成だ、綾」
「一樹が“何か”を言ったのなら、それを考えるのは本人だけだ。俺達が今何を言っても、余計に彼女を混乱させるだけだろ」

 悠の言葉に、綾は両手をぎゅっと握りしめた。

「タイミング悪いよ…あいつ最近、ずっと悩んでて…」
「綾…」

 物事を解決するのは、いつも自分自身なのだ。
 いくら沙織に何かを言っても、考えるのは自分自身。
 何が正しくて、何が間違っているのかを決めるのも。
 それは、綾もよく分かっている事だった。

「でも全く気付かなかったな」

 床の足跡を見ながら、悠は言った。
 自分達に全く気配を感じさせずに結界を作り出すなんていう芸当が出来るとは思わなかった。
 少し、相手を甘く見すぎていたのかも知れない。

「すまない、近くにいたのに…」
「それを言うならあたしら全員の落ち度だよ。悠だけのせいじゃない…」

 だけどさ、と綾は家のほうを見つめた。

「大丈夫かな…」

 心配そうに言う綾。
 今は、様子を見るしかない。それはわかる。
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