Four Tethers〜絆〜

ACT.4…『失 踪』

 次の日。
 朝が弱いはずの綾は、珍しく早く目が覚めた。
 だが、決してすがすがしい目覚めではなかった。
 ベッドの上に起き上がり、綾は何気なく辺りを見回す。
 いつもと変わらない朝なのに、妙な胸騒ぎがする。

『綾…ありがとう…大好き』

 夢だったのか。
 沙織がそんなことを言っていたような…。

「まさかっ!」

 飛び起きて、沙織の部屋に向かう。
 …だがやっぱり、あの言葉は夢じゃなかった。
 部屋の中には、沙織はいなかった。

「…これが、彼女の出した答えなんだ」

 いつの間にか、悠がそこに立っていた。
 これが、沙織の答え…?
 自分達を置いて、一体何処に行ったというのか。
 ――…まさか。

「…あいつの所へ行ったのか?」
「…そう…だと、思う」

 悠にしては、歯切れの良くない答え方だった。
 その態度で、沙織は本当に誰にも何も言わずに出て行ったのだと、綾は悟った。

「沙織の居場所も、分からないのか…?」
「あぁ。一樹と同じで、気配が全く感じられないんだ」

 悠は珍しく気弱に言った。
 綾は忌々しそうに壁を叩く。

「あともう一つ…、今朝から大変な事になってるぞ」

 諒が言った。
 店に出てみると、窓ガラスが割られ、椅子やテーブルや食器は全部壊されていた。

「なんだよこれ…」

 綾は呆然とその光景を見る。
 これだけ滅茶苦茶にされているのに、どうして気付かなかったんだろう。

「とにかくっ! 街へ行く!」

 一樹の手がかりは、接触したことがある駅の周辺しかない。

「待て、綾!」

 諒の制止を聞かずに、綾は店を出ようとした。
 だがふと、その動きが止まる。

「…朝から、何をお急ぎ?」
「婆さん!」

 店の入り口に、一人の人物が立っていた。
 綾はかまわずに外へ向かおうとする。
 だが、軽く動かしたその指先の力によって、店の中に押し戻されてしまった。
 思わずしりもちをついて、綾は店に入って来た人物を見上げる。
 いつかペンションで会った時の姿とは違い、今回は本当に背の低い老婆の姿をしている。

「何すんだよ!」

 綾が怒鳴る。
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