Four Tethers〜絆〜
 だが老婆はそんな綾を気にも止めずに、カウンターの椅子に座った。

「あんたが用事あるのは悠と諒だろ。あたしは今急いでるんだ、行かせてもらうよ」
「…彼女は、自分なりに真実を見極めようとしているのよ。それなのに、あなたは彼女の邪魔をする気なの?」

 立ち上がった綾の背中に、老婆は穏やかな口調で言った。
 綾の動きが止まる。

「あなた達は、他にやることがあるはず…感じないの?」

 そう言われて初めて、綾は周りの異様な空気に気が付いた。
 敵の気配が、綾にもはっきりと感じられる。
 それは、街中にはびこっているようだった。
 綾は今すぐ飛び出したいのを我慢して、煙草を取り出した。

「…で、あんたはここに何をしに来たんだ?」
「この場所を守る為…。だってあなた達、これから出掛けなきゃならないでしょう? 沙織さんのいないこの店を、誰が留守番するの?」

 老婆はにこやかにそう言った。
 じゃあさっき引き止めたのは何なんだよ、と文句を言う綾。
 まぁまぁ、と諒に宥められる。

「あのまま飛び出して行っても、周りがよく見えないでしょう。冷静にならないと、思わぬところで怪我をするわ」

 綾は前から、この老婆が苦手だった。
 悠はさっきから目を閉じて、何かに意識を集中させているようだ。

「…港、だな」

 ゆっくりと目を明けて、おもむろに悠が言った。
 取り敢えず一番近くにいる力のある敵の気配は、港の方から感じられる。

「じゃ、まずそいつから」

 点けていない煙草をテーブルの上に置き、綾は即座に立ち上がる。

「少しは落ち着けよ、綾」
「…わかってるよ、悠。ストレス発散してくるだけだよっ!」
「だからそれが…もう行ったか」

 悠はため息をついた。
 諒もその後に続く。

「この場所は、私に任せて?」

 老婆は穏やかに言った。

「分かりました」

 悠は頷いて、店の外に出た。
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