Four Tethers〜絆〜
【第六章】

ACT.1…『新 手』

 美紀は薄く笑みを浮かべながら、こっちを見下ろしている。

「ダメね…気配を消してもすぐにばれちゃうみたい」

 年相応の言い回し。
 美紀はぺろりと舌を出す。

「まさかお前も…能力者…?」

 呆然と、綾は言った。

「そうよ。あなた達を、足止めしておけと言われたの」

 誰に言われたのかは、大体見当がつく。

「もう時間ないけど」

 美紀はその手に持っていたもう一本の鉄骨を、物凄い勢いでこちらに向かって投げつける。
 あんな鉄の塊に当たったら、ただじゃ済まない。
 しかも、鉄骨には“気”が込められていて、まるでコントロールされているかのようにこっちに向かって真っ直ぐに飛んできた。

「こらぁ! ガキだからって、あたしは容赦しないよっ! 覚悟は出来てるんだろうねぇ!」

 鉄骨を避け、綾は倉庫の屋根に向かって叫ぶ。

「…ちょっと待て、綾」
「何だよ! 悠最近、その台詞しか言ってなくない?」
「あの子は能力者で、肉体を持った人間だ…おまえと同じ」
「分かってる! おしおき程度にしてやるよっ!」

 そう言って、綾は倉庫の屋根の上へ登っていった。

「…諒」

 悠は、諒を呼んだ。

「俺はどうも、あの子の言った『もう時間がない』っのが気になるんだ」
「俺も同感。今日は…」

 今日は、一年に何回か来る『あちらとこちらの世界が近づく日』なのだ。
 悠達にとってそれは、力を蓄える大切な日。
 そして、精神的な影響を最も受けやすい日でもある。
 それを狙って、一樹が何かをやるというのか。

「足止めったって、ヤツが何処にいるのかも分からねぇのにな」
「…そうだな…」

 ここで自分達を“足止め”させるのが目的なら、その間一樹は、何を企んでいるのか。
 もしも沙織が一樹の元へ行ったのだとしたら…。

「相手が時間がないって言うなら、こっちも時間がないって事だな」

 悠は言った。

「――何をそんなに悩んでいる?」

 背後で新たな声がした。
 同時に飛んでくる、強い衝撃波。

「くっ…!」

 悠が瞬時に防御の壁を作る。
 体格のいい男の姿が、そこにはあった。
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