Four Tethers〜絆〜
 一瞬だけ、倉庫内を静寂が包む。
 ――だが。

「…うるさい! 友達なんかいらない!」

 今までとは違い、あきらかに動揺したような口調で美紀は言った。
 そして、まるで子供が泣いて暴れ出すように、めちゃくちゃな攻撃を仕掛けてきた。

「…友達なんか、いらない?」

 次々と避けながら、綾は呟く。

「何もかも、この世界から消えてなくなっちゃえばいい…っ!」

 美紀の言葉を聞いて、綾はその場に立ち尽くした。

『お前らなんかいらない、この世界から消えろっ!』

 悠や諒と出会った時、綾が言った言葉。
 美紀の放った攻撃が、頬を掠めた。

「美紀!」

 綾は叫ぶ。
 名前を呼ばれ、戸惑う美紀。

「…あたしが、美紀の友達だろ?」

 夏に、友達になってくれと言われた時。
 綾は、返事が出来なかった。
 自分に関われば、危険に巻き込まれるかも知れなかったから。
 だけどあの時、ちゃんと話を聞いてあげていれば…、
 ――孤独は嫌だ。
 そんな気持ちが、今また身に染みて分かる。
 ――理解出来るから、言える。

「孤独は…嫌だよね…」

 綾は、そう呟いた。

「この世界が変わってしまったら、一生友達なんて出来ないよ、美紀」

 いつの間にか、攻撃は止んでいた。

「友達は…支配するものじゃないからね」

 そして、綾は彼女の前に降り立つ。

「あたしが、友達になる」

 抱き締めた美紀の身体は、小刻みに震えていた。
 そして、次の瞬間。
 綾はコンテナにもろに弾き飛ばされた。
 そして、倉庫の壁に体を打ちつけ、倒れる。

「…どうして…?」

 美紀は、その場にへたりこんだ。

「どうして避けないの…」
「あたしも、美紀と同じだったから…あんたの気持ち、すっげぇ分かる」

 美紀は、何も言わない。綾はゆっくりと立ち上がった。
 怪我のせいで、思うように力が入らない。

「あたしは、かけがえのない友達が出来たから…今からそいつを、助けに行くんだ…でもその前に、美紀のことを何とかしなきゃと思ったから…」
「………」

 美紀は黙っていた。
 もう、攻撃も仕掛けてこない。
 綾はそのまま、ゆっくりと外へ向かって歩きだした。
< 141 / 156 >

この作品をシェア

pagetop