Four Tethers〜絆〜
 ――そして。

「悠っ!」
「了解」

“それ”が受けとめた球体の閃光をこっちに向かって弾き飛ばす一瞬前に、悠のかざした右手が淡い水色に光った。
 すっと動かすと、その淡い水色は一瞬でこの喫茶店を包み込む。
 ガタガタガタ、と強い風でも吹き付けたかのように店の窓ガラスが振動し、球体の閃光は悠が作り出した水色の膜に弾かれた。

『…あ…れ…は…どこ…にいる…』

“それ”はそう言いながら、ゆっくりとこっちに向かって移動し始めた。
 ゆらり、ゆらりと歩く度に、その長いストレートの黒髪が揺れる。

「それ以上は」

 今度は諒が動く。
 同時に綾もまた、屋根から跳躍して“それ”に飛び掛かった。
 女は表情一つ変えない。
 だが一瞬、言葉もなく立ち尽くしたままの沙織と視線が絡む。
 女はニヤリと笑う。
 その不気味な風貌に、沙織は背筋に悪寒が走った。
 そして、二人が飛び掛かる一瞬前に――女は消えた。

「…逃げたか」

 いきなり消えた目標に、諒は身体の動きを止めた。
 その諒もまた、人間離れした跳躍力を持っている。
 勢い余った綾は、もう少しで危うく海に落ちるところだったが。
 全く動けない沙織。
 そして三人は店の中に戻ってきた。
 信じられない光景を見た沙織は、頭の中が真っ白で、何も言葉が出てこなかった。
 なんとも気まずい空気が流れる中、悠はいつもと変わらない静かな口調で言った。

「…まず、おいしいコーヒーでも飲もうか」

 悠に促された沙織は、呆然としたまま店の客席に座った。
 諒と綾も思い思いの場所に陣取ると、悠は慣れた手つきでコーヒーを沸かす。
 四人分のコーヒーがテーブルに並べられると、悠は沙織の前の席に座った。

「俺たちから話をすることがたくさんありすぎて…まず、沙織ちゃんの質問から聞きたいな」

 コーヒーを一口飲んでから、悠は言った。
 そう言われても、咄嗟に質問なんて、なかなか出てくるものではない。
 未だに沙織の頭の中でさっきの光景が繰り返し蘇ってはいるが、何一つ理解できる事柄がない。

「…あの女の人は…」

 やっとのことで思いついた質問は、至ってシンプルなものだった。
 苦笑しながら、悠が話し出す。
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