Four Tethers〜絆〜
 考え込んでいた沙織は慌てて笑顔を作る。

「うん、なんかいいなぁって思って」
「…?」

 言葉の意味が分からずに、悠はキョトンとして沙織を見つめる。

「あのね、悠くん達を見てると、気持ちが通じ合ってるっていうか、信じ合ってるっていうか…」

 言葉ではうまく説明出来ない。
 そんな沙織を見て、悠は笑顔を作り、ごく当たり前のように答えた。

「あぁ、信じてるよ」

 こういうことをさらっと言えるあたりが、羨ましいと思えるのだ。
 外は先刻よりもまた、風が強くなっていた。
 海水浴をしている人もまばらになっている。
 店の窓ガラスも、カタカタと音を立てていた。
 後片付けをしながら沙織はまた、窓の外を見つめる。

「ホント、降ってきそうね」

 諒も綾も傘を持っていない。
 心配そうに、沙織は呟いた。

☆☆☆

 店から少し離れた場所、岩場に打ちつける波を見ながら、綾は砂浜に座っていた。

「昼メシいらねぇのか?」

 いきなりそう声を掛けられる。
 いつの間にか、隣に諒が立っていた。

「どこにいても居場所が分かるってのも、善し悪しだよなぁ…」

 真っ直ぐに海を見つめたまま、大して驚きもせずに綾は言った。
 悠や諒には相手の気配は分かっても、あいにく綾はその気配を掴むのは苦手だった。
“殺気”なら割りと簡単に感じるのだが――。
 こんな風に気配を消して来られると、近づかれたのが全く分からない。

「今は貴重な“一人の時間”なんだよ。分からないかなぁ、乙女心ってやつ…」

 便利なように思えるこの能力も、一人になりたい時には少し迷惑なものだった。

「知ってるけどな。わざわざ来てやった」

 諒の言葉に、綾はやれやれ、とため息をついた。
 こんなに恩着せがましい言い回しを悠と諒以外の人間に言われたら、綾はきっと怒りだすに違いない。
 だが何故か、この二人だけには何を言われても、多少のことで喧嘩になることはなかった。
 まぁ所詮、この諒という男に“乙女心”を理解しろと言うほうが無理な話なのだ。
 それでも何とか憂さ晴らしをしようと思い、綾はわざわざどうも、と精一杯、皮肉を込めて言い返す。
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