Four Tethers〜絆〜
「あ…あれ？」

　その客はようやくこっちに気が付いたというように、沙織を見た。
　そして、辺りをキョロキョロと見回す。

（あ、女性だ…）

　顔を見てようやく、その人物が女だと確信した。
　沙織は少しほっとする。

「ちゃんと拭かないと…」

　その女性にタオルを掛けてあげながら、沙織は言った。
　だが彼女は、沙織の言葉がまるで聞こえていなかったらしい。

「ちょっ…ねぇ、ここどこっ!?」

　彼女は慌てた様子で、いきなり沙織の両肩を掴んでそう聞いてきた。
　その肩にかけたばかりのタオルが、ぱさりと床に落ちた。

「…えっと…」

　喫茶店です、と答えようとしたのだが、彼女はいきなり頭を抱えて、その場に蹲る。

「しまったぁ…飛ばされたよ…あたしとしたことが…」

　…この人は、まともに人の話を聞こうとしているのだろうか。
　しかも何を言っているのか、全く理解出来ない。
　これは、あらゆる状況を想定していた方がいいと、沙織は思った。
　そして、頭の中で色々なシュミレーションを繰り広げる。
　彼女がもし犯罪に巻き込まれている、もしくは犯罪者なら…相手に気付かれないように、警察へ電話する。

「あ〜も〜、どうしていつもこうなんだよ…ったくムカつくんだよな…」

　でも、精神異常者の場合って…？
　何にしろ、やっぱりいつでも警察に連絡出来る態勢を整えておいたほうがいい。
　この手の人間は、下手に刺激するとどんな行動に出るかわからない。
　沙織は、なるべく優しい口調で彼女に話し掛けた。

「と…とにかく、席はいっぱい空いてますから…座りませんか？」

　…当然、客は一人もいない訳だから、どこでも座りたい放題なのだが。
　すると彼女はまだ何か面白くなさそうにぶつぶつ言いながら、それでも覚束ない足取りで、素直に沙織の言葉に従い窓際に座った。
　だが、まだ息を荒くして、時折辛そうに顔をしかめている。
　見たところ外傷はなさそうなのだが。
　それに衣服も、濡れている以外は乱れたりもしていない。

「あの…ご注文は…？」

　自分でも分かるくらいの引きつった笑みを浮かべながら、沙織は聞いた。
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表紙・目次

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