Four Tethers〜絆〜
 どう見てもランチを食べに来たとは思えないのだが、ここはれっきとした喫茶店なのだ。
 入って来た客に、注文を取らない訳にはいかない。
 だがこういう想定外の出来事には、得意なはずの営業スマイルもなかなか出ては来ないらしい。

「ったく…ドジったよなぁ…まさかこのあたしが…くそっ、あいつ、どーしてくれようか…」

 彼女は相変わらず、独り言を繰り返している。
 沙織は小さくため息をついてカウンターに戻ると、ホットカフェオレを作った。

「…どうぞ。もっとよく体を暖めてちゃんと拭かないと、本当に風邪引いちゃいますよ?」

 沙織はテーブルの上に、ホットカフェオレを置いた。

「…あ、ごめん。ありがとう」

 その時初めて、彼女は沙織とまともに視線を合わせた。
 …あれ?
 と、沙織は違和感を感じる。
 ちゃんとお礼が言えるあたり、そんなに変な人物ではないのかもしれない。
 とにかく体を暖めて、少し落ち着いてさえくれれば。
 沙織はカウンターの中に戻り、しばらく彼女を静観していた。
 ホットカフェオレを飲みながらしばらく窓の外を見ていた彼女は、ふとこっちに向き直ると話し掛けてきた。

「ねぇ」
「…はい?」

 今度は何を言い出すのかと不安になりながらも、沙織は返事をする。

「もうすぐここに男が二人来ると思うんだけどさ」
「……?」
「あたしを匿ってくれない?」
「はい?」

 …そう来るとは思ってなかった。
 こういう時は、どう対処したらいいのか。
 さっき頭の中で繰り広げたシュミレーションの全部が、この時点で無駄になる。
 だが彼女は、沙織に必死で訴え掛ける。

「ね、お願い。あたしそんなに怪しい奴じゃないし」

 …めちゃくちゃ怪しいんですけど…と思ったが、沙織はその言葉を口に出すことはなかった。

「でもどうして?」

 匿うにしろ、彼女の素性も今の状況も、何も理解していない。
 とにかくその理由が聞きたいと思い質問を投げ掛けたその時、またドアのカウベルが鳴る。

「い、いらっしゃいませ」

 今日はどうも得意の営業スマイルは、不発に終わるようだ。
 沙織が内心ため息をつくと、彼女が言ったように男が二人、店に入ってきた。
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