Four Tethers〜絆〜

ACT.3…『帰 宅』

 何が起こったのか、全く分からない。
 だが、たった今まで目の前に立ちはだかっていた女の姿は、もう何処にもなかった。
 あの、空間が広がったような感覚は、何だったんだろう。
 まだしばらく耳鳴りのようなものが続き、気付いた時には店も歪んではいなく、全て元どおりになっていた。
 …これでとりあえず、状況は打破できたのだろうか?
 沙織はまだ現状がよく把握できずに、その場に茫然と立ち尽くした。

「沙織ちゃん」

 いきなり名前を呼ばれて、沙織は身体を強ばらせる。そこには、悠が立っていた。

「悠くん…」

 その姿を見た途端、沙織は力が抜けてその場にへたりこむ。

「大丈夫?」

 まるで何もなかったかのように、悠はいつものおっとりした口調で言った。

「悠くん…綾が…」
「諒に行かせたよ。それより…ごめん」

 悠はそう言って、沙織の目の前に座る。

「こんなことになるとは思わなかった。今回は完全に、俺達のミスだ」
「ううん、もう大丈夫だから…」

 また少し、悠たちの世界のことがわかったから。
 不思議と、怖いというよりも少しだけ嬉しいという気持ちのほうが強かった。

「今はとにかく、店に戻ろう」

 悠はそう言って、沙織を抱き起こした。
 店はほんの目の前だ。

「ホントに…だっ大丈夫だから」

 沙織は慌てて悠の腕から離れる。
 だが、自分で思っている以上に身体は疲れているらしく、立っていられないほどに足が震えていた。

「あ、あはは…ごめんね、普段運動不足で…いきなりたくさん走ったから、きっと足がびっくりしちゃったのかも」

 沙織はそう言って苦笑する。
 だが悠は、ゆっくりと首を横に振った。

「“力”を使った後は想像以上に体力を消耗するものなんだ」
「力、って…?」
「“鍵”の力…偶然、だろうけど…」

 何故か少し、歯切れのよくない悠の言葉。
 でもまだ本当に目覚めてはいないんだろう、と悠は付け加えた。

「でも、今回大活躍だよ、沙織ちゃん」

 悠は笑ってそう言うが、そんな簡単なことでは済まされないような気がする。
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