Four Tethers〜絆〜
 すると諒は、複雑な表情を浮かべて答える。

「あぁ、沙織ちゃんが…向こうに返した」
「沙織が…?」

 悠は“偶然だろう”と言っているけど、と諒は付け加えた。
 綾は少し、考え込んでいた。

「考えるの、後にしろよ」

 諒は言った。
 もう少しで店に着く。気恥ずかしいのか、綾はまた降りると言い出したが、諒は断固として離さなかった。

「無茶するな」

 そんなこと言ったって…と綾はむくれる。

「今は、大人しくしてろ…いいだろ、たまには」

 譲る気配のない諒の言葉に、綾は諦めの表情を浮かべた。

☆☆☆

 店に入ると、沙織が駆け寄ってくる。

「…よかった…ごめんね、私の」
「沙織のせいじゃないから。二人で頑張ったんだろ」

 笑いながらそう言う綾に、沙織はうん、と頷いた。
 諒に抱かれた綾ば見るからにボロボロに傷ついている。
 これもみんな、自分を守るためなんだ…と、沙織は本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「そんな顔するなって。こんなのいつものことだからさ、痛くもかゆくもないよ」
「無理すんなバカ。悠、頼む」

 諒はそのまま、綾を部屋に連れていく。
 外傷はともかく、内面的なダメージは悠の“癒し”の力が必要なのだ。
 大丈夫だから心配しないで、と悠は笑って、綾の部屋に入っていく。
 それと入れ代わりに、諒がリビングに戻ってきた。
 沙織はミルクと砂糖を多めに入れたコーヒーを、諒に差し出す。

「沙織は、怪我しなかったか?」

 珍しく、諒のほうから話し掛けてきた。
 沙織は、ソファに座ると頷く。

「大丈夫よ…」

 浮かない顔の沙織を見て、諒はコーヒーカップを口に運んだ。
 それから二人の間に会話はなく、しばらくすると、悠が綾の部屋から戻って来る。

「今眠ったよ」
「そう…よかった…」

 沙織は悠にもコーヒーを入れる。
 しばらく、誰も口をきかなかった。
 それぞれ、思い思いに考えを巡らせて。
 時計の秒針が動く音だけが、やけに大きく聞こえた。
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