Four Tethers〜絆〜

ACT.4…『異世界』

 沙織は前から疑問に思っていたことを、この際だから聞いてみる。
 悠と諒は顔を見合わせた。

「綾から聞いたの?」
「うん…」

 悠は、仕方ない、というようにため息をついた。

「…俺、綾を見てくる」

 諒はそう言って立ち上がる。
 あとは任せた、と悠に小声で言って。
 了解したよ、と悠は肩をすくめた。

「この世界と、何も変わらないんだよ…」

 諒がリビングから出ていくのを見送ってから沙織の方に向き直ると、悠はそう言った。

☆☆☆

 悠や諒達は、沙織達が住むこの世界よりほんの少し高い次元の世界に存在する人間なのだそうだ。
 つまり、幾重にも重なっている世界、パラレル・ワールドの住人。
 さっき襲ってきた女も、悠達と同じ世界に存在する者で、悠達とは相対する者だった。
 ずっと前から、悠達はこちらの世界と“共存”し、脅かすことなどなかった。
 だが『人間の心の闇』につけこみ、しまいには狂わせ、死に追いやるか犯罪に手を染めさせるという連中が現れた。
 まるで、遊んでいるように、と悠は言った。
 悠達の存在する世界は精神的な要素が強く、全てが満たされていた。
 ところがこの世界は、原始的で雑然とした混沌…それが当たり前のように存在する。
 人間は少しの事で笑い、泣き、怒り、そしてほんの少しの事で、簡単に死んだりもする。
 悠達の世界の住人にとって、それはとても面白い“玩具”みたいな物だった。
 『上の世界』から降りてくると、こっちでいう超常的な能力を発揮する。
 例えば人間を惑わせたり、操ったりするなんてことは簡単なことだった。

「…だからここは、俺達にとって面白い“遊び場”みたいなもの…なんだ…」

 歯切れのよくない口調で、悠は言った。
 沙織は黙っている。

「“鍵”というのは多分、向こう側とこちら側をコントロールすることができる能力のことだと、俺は考えてる」
「それが、私…?」

 悠は頷いた。
 だけど沙織は何も分からなくていいんだ、と悠は言った。
< 45 / 156 >

この作品をシェア

pagetop