Four Tethers〜絆〜
 綾が言いたい言葉など、こっちは百も承知だ。

『来るな! 誰も…信用なんて出来ないんだからっ!』

 そう言い切る綾の目から、涙がこぼれた。

「…諒…!」

 悠が叫ぶ。
 渾身の力を込めた、綾の最後の攻撃。
 想像以上に大きい。
 もう少しで、諒は綾に手が届く距離。
 だがあの至近距離から攻撃を食らってしまえば、ただではすまない。

「全く…」

 悠は、最後の手段に出た。
 一か八か、自分の持てる力の全てを使って、綾を自分の結界の中に閉じ込める。
 この距離では、諒も自分も一緒に巻き込むことになるが…。
 諒は一瞬、悠と視線を合わせた。
 それだけで、悠が次にどう動くかが、手に取るようにわかった。
 それと同時に悠は結界を最大限に凝縮して、綾と諒、そして自らの身体ごと空間に閉じ込めた。

「お前の言いたいことなんて、俺達はちゃんと分かってるんだよ! 何で分からねえんだ、このバカ!」

 綾の攻撃のパワーを吸い取る空間の中で、諒は言った。
 自らのパワーも、どんどん無くなっていく。
 悠のパワーよりも綾のそれが勝っていたら。
 ここにいる三人とも、全員が倒れてしまう――。

☆☆☆

 沙織が自分の部屋に閉じ籠もったのを見計らって、諒が綾の部屋から戻ってきた。

「姫のご機嫌はどうだ?」

 一番面倒な役回りを押しつけておいて、諒は能天気にこんなことを聞いてくる。
 悠は分からない、と正直に答えた。

「信じろ、なんて言葉…簡単に言えないよな…」

 短くなった煙草を灰皿に押し付けて、悠は言った。

「どうしたんだよ」

 悠の向かい側に腰を下ろして、諒は苦笑する。

「綾と出会った時のことを、思い出してた」
「………」

 それでようやく、諒は悠の言いたいことを理解した。
 あの時――自分も綾に、信じろという言葉を投げ掛けることは出来なかった。
 今の沙織も、きっとあの時の綾と同じ気持ちでいるに違いない。

「ま、俺達が彼女のことを信じていれば、何とかなるんじゃねぇのか?」

 綾の時みたいにさ、と諒は笑う。
 そうだな、と悠も納得した。
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