Four Tethers〜絆〜
 要注意、と言われて、沙織はそのカップルを見つめる。

「ちょうど“気配”がする。奴等は、ああいう“憎しみ”とか“妬み”が好きなんだ」

 しばらくすると、女性の方が暴れだした。
 グラスが床に落ちて、ぱりんと割れた。

「どうするの?」

 心配そうに、沙織が言った。
 ん〜、と少し悩んでから、綾はおもむろに立ち上がる。

「綾?」

 沙織の心配をよそに、綾はつかつかと喧嘩をしているカップルの席に歩み寄る。

『誰だ、オマエ…』

 女の形相は、鬼のように歪んでいた。
 沙織はおろか、店員や一緒に飲みに来ている彼氏までもが、別人のようなその女の形相に怯んでいる。
 だが綾は、全く怯む様子もなく女の目の前に立った。

「ホントはね、雑魚なんて相手にしないんだけどさ。今日は特別」

 綾はそう言って、極上の笑みを浮かべた。
 女は綾に掴み掛かる。

「綾!」

 沙織は思わず叫んだ。
 だが、綾はその手をがっちりと掴んだ。
 女は藻掻くが、綾の手から逃れることは出来ない。

「はいごめんよ」

 綾の言葉と同時に、その手が微かに光を帯びたように見えた。
 だが、それに気付いたのは沙織だけだった。
 徐々に女の身体から力が抜ける。
 ついに立っていられなくなり、倒れこむ寸前に綾がその身体を支えた。

「なんだよこいつ…訳わかんねぇ」

 一緒にいた男は、そう吐き捨てると店を出て行こうとした。
 綾はそれを横目で睨み付ける。
 だが、綾が動こうとするその前に、沙織の動きのほうが早かった。

「……!」

 沙織に平手打ちを食らった男がその場に倒れるのを、ここにいる全員が呆然と見つめる。

「さっ…沙織?」
「彼女を支えてやるのは綾じゃない、あんたでしょ!」

 沙織の迫力に押されるように、男は彼女を綾に変わって抱えた。

「…壊したグラスは、残念だけど弁償しなきゃね」

 後はお店の支配人とでも交渉してくれ、と綾は言って、自分の席に戻った。
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