Four Tethers〜絆〜
「お〜い、悠! やっぱヤバイって!」

 悠、と呼ばれた真面目君は、茶髪の言葉に眉をひそめ、沙織の方を見て「ちょっと失礼」と言うと家の中へ入って行った。
 …ヤバい?
 一体何がヤバいのか。
 慌てて沙織もその後に続き、家の中に入った。
 入ってすぐの廊下を見ると、茶髪が、ぐったりしている彼女を抱えるようにして座っていた。

「ねぇ、どうしたの!」

 沙織は彼女(綾、だったっけ?)に駆け寄る。
 だが彼女は意識を失っているらしく、呼び掛けても全く反応はなかった。

「ねぇ、彼女に何をしたの!?」

 沙織は隣にいた眼鏡に詰め寄る。
 だが、眼鏡は何故か落ち着いていて、苦笑しながら沙織に言った。

「早い話が、彼女は怪我をしてるんです」
「…怪我?」

 沙織は聞き返す。
 そう言えばここに来てからずっと、彼女は具合が悪そうだったが…。
 改めて見ても、どこにも外傷はなさそうだった。
 しかし意識を失うほどの大怪我をしているのなら、すぐに救急車を呼ばなければならない。

「今、救急車呼ぶわ!」
「いや、結構ですよ」

 慌てて電話に駆け寄ろうとした沙織の腕を掴み、眼鏡は相変わらずおっとりした口調で言った。
 そんなに強く握られているわけでもないのに、何故か身体が動かない。

「どうして…? 気を失ってるのよ?」
「下手に動かすと尚更危険なので…少し横になれるスペースを貸していただけませんか?」

 何故かと尋ねる沙織の質問には答えずに、眼鏡はいやに丁寧な口調で言う。
 緊急事態だと判断した沙織は、眼鏡を寝室へ案内した。

「お医者さん呼んだ方がいい?」

 彼女をベッドに寝かせてから、沙織は聞いた。
 しかし、眼鏡は首を横に振る。

「あいにくこの怪我は、医者には治せないんですよ。その代わり、あなたは少し外に出ていていただけませんか?」

 眼鏡が言い終わるか終わらないかのうちに、茶髪が沙織の手を掴み、部屋の外へ連れ出す。

「ちょっと…本当に大丈夫なの?」

 強引に引っ張られて、とうとう店まで連れ戻されてしまった。
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