Four Tethers〜絆〜

ACT.2…『能 力』

 風はさっきよりもますます強くなってきていた。
 大きなテラス戸の外にある木々のざわめきが、一層激しさを増す。
 沙織は、出て行ったままの三人のことが気になって、ずっと窓の外を眺めている。
 婦人は何も言わないまま、リビングの一人掛けソファに座り、じっと目を閉じていた。

「…また、来たんですね?」

 テラス戸の前に立っている沙織は、振り返らずに婦人に聞いた。
 婦人はゆっくりと目を開ける。

「…正確には、こちらが敵を誘い出した、と言ったほうがいいのかしら」

 静かな口調。
 だが、昼間とは少し、雰囲気が違った。
 感情の読み取れない、冷静な声音。

「…どういうことですか?」
「あなたの『能力』よ」

 また、自分の“能力”が関係しているのか。
 婦人の言葉に、沙織はぎゅっと自分の手を握り締めた。

「あなたは、私達と同じ…いいえ、私達よりもずっと強力なパワーを秘めている」

 前にも、悠が同じような事を言っていた。
 だがこっちに気を使って遠回しに説明してくれる悠と違って、婦人は容赦なく、冷徹なまでに言葉を並べ立てている。

「沙織さん、あなたがここに来ることを決めた。それは言い換えれば“あなたはここに来なければならなかった”ということなのよ」

 それは一体、どういうことなのか。
 ここに来なければならなかった理由とは、何なんだろう。
 この旅行を決めたのは沙織。
 でも、敵がいるなんて思ってもみなかった。
 ただみんなと一緒に、楽しい時間を過ごしたかっただけなのに…。
 その時また、胸の奥がちくりと痛んだ。
 同時に、悠と諒、綾の姿が何故か脳裏に浮かぶ。
 たった一瞬だったが、あの三人は今、戦闘の真っ只中にいるのだ。
 ここに来なければならなかった理由。
 それは…。
 まさか、あの三人を、戦わせる為なのか。

「私…私は…」

 ぎゅっと唇を噛む。
 そんな沙織の気持ちを見透かすかのように、婦人はまた、口を開く。
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