Four Tethers〜絆〜
 だが婦人はそんな沙織の意に反して、淡々と言葉を続ける。

「沙織さん、あなたがここを選んで、敵を誘い出したのよ」

 我慢しきれずに、思わず耳を塞ぐ。

「私にそんな能力なんてありません…!」

 半ば悲鳴のように、沙織は言った。
 婦人は沙織から離れ、ソファに座りなおすと、またじっと目を閉じる。
 さっきから続く胸の奥の痛みは治まることはなかった。

「私のせいみたいに、言わないで…」

 沙織は胸を押さえて、その場に蹲った。

「あなたを責めているんじゃないわ…私達はずっと…そう、あなた達が生まれるずっと前から、戦ってきた…」

 終わりの見えない戦いを、ずっと続けてきたのだ。
 沙織は、顔を上げて婦人を見つめる。
 目を閉じたままのその表情はわかりづらかったが、どこか悲しそうに見えた。
「何も心配しなくていい…誰のせいでもないの。あなたは…もしかしたら…終わらせることが出来るかも知れない…」
「…え?」

 思いもしなかった言葉に、沙織は顔を上げる。

「もうずいぶん長い間…争う事しかしたことがなかった…」

 婦人はそう言って、窓の外を見た。
 風はおさまる気配を見せない。
 今頃、みんなは…。

「どうして…」

 困惑している沙織に、婦人は苦笑する。

「…でももう、そろそろ限界」

 不思議そうに婦人を見つめる沙織。

「私はこの世界に介在することは出来ないの…ただずっと、見守ることしか…。だから、あなたは私達の…いいえ、私の“希望”なのよ、沙織さん」

 婦人は言った。
 この世界で沙織と出会い、あの場所に喫茶店を建てて、沙織をそこへ促した。
 そうすることが、婦人が出来る精一杯のことだった。
 その結果がどうなるのか、それは婦人にも全く予測がつかないのだという。

「でも…本当に、私、何も出来ない…」

 何て言っていいのかわからない。
 …ただ、もし本当にこんな能力があるのなら…この先ずっと、みんなを危険な目に遭わせてしまうことになる。

「大丈夫…あなたはあなたでいいの。信じていれば必ず道は開ける」

 この中川美恵子という人物は、綾と同じような事を言う。
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