Four Tethers〜絆〜

ACT.5…『気持ち』

 とりあえず、今回の敵は消滅した。
 しばらくは、新手も出て来ないだろうと悠は言っていた。

「じゃあ、あの時のあたしと同じ状態だったわけか…その陽子ちゃんて子は」

 話を聞いて、綾が言った。
 ペンションに戻ってきたのは、時計が午前零時を回る頃だった。
 気を失ったままの陽子をを客室に寝かせて、みんなは婦人が用意してくれた紅茶を飲みながら、リビングに集まっていた。
 陽子は、朝になったら沙織が車で家まで送ることにした。
 彼女の記憶は婦人の手によって、沙織とここへ旅行に来たということになっている。
 これで陽子の精神的なダメージが軽減されるなら、と沙織もそれには同意した。
 沙織が陽子を送ってくる間、悠と諒はしばらくここで傷を癒すことにした。

「ご苦労様…大変だったわね」

 陽子を寝かせている客室から、婦人が戻ってきた。
「いえ…」

 沙織はカップを両手で包み込むように持ちながら微笑む。

「あたし、温泉入ってくるわ」

 ボロボロになった洋服についた砂を払いながら、綾はリビングを出て行く。
 悠と諒も、さすがに疲れた様子だった。
 しばらく沈黙が続く。
 吹き荒れていた嵐は嘘のようにおさまって、テラス戸からは満月の月明かりが見える。

「沙織さんは、疲れてない?」

 婦人は昼間会った時と同じ温和な表情に戻っていた。
 疲れたというより、色々なことがありすぎて、頭の中が飽和状態になっている。

「大丈夫?」

 悠が、心配そうに聞いた。
 沙織は頷いて、紅茶を一口飲んだ。

「無理しないで、明日も運転があるんだからね」
「うん…ありがと、悠くん」

 沙織は、ふと思ったことを聞いてみる。

「あの…みんなは、私に能力があるってことを、初めから知ってたのかな…」

 問いかけに、悠は答える。

「俺達は知らなかったよ。でも、あなたは知っていた…そうですよね?」

 その言葉は、ソファに座っている婦人に向けられていた。
 婦人はそうよ、と笑う。
 ここまであっさりと肯定されると、なかなか次の言葉が出てこない。
 困っている様子の沙織に、婦人は穏やかに言葉を付け足した。
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