Four Tethers〜絆〜
 だが悠は、沙織の入れたコーヒーを美味しそうに飲みながら言った。

「大丈夫ですよ。それにしても、こちらこそすっかりお世話になってしまって…」

 ふと、沙織は妙なことに気がついた。
 この二人、こっちの質問に一つも答えてはいない。
 わざと話を確信に触れさせないようにしているのだろうか。

「…ところで、この場所はどういう経歴で手に入れたの?」
「どういうって…?」

 逆に悠に質問されて、沙織は答えに詰まる。
 この店は、沙織にとってもラッキーとしか言いようがない経緯で手に入った物件だった。
 早い話が、ある人物からタダで半永久的に借りられたから。
 沙織が素直にそう説明すると、二人は顔を見合わせた。

「その人物って…」
「これは、偶然と言ったほうがいいのかな?」

 沙織には、この二人が何を言っているのか、全く理解できない。
 偶然とは、どういうことなんだろうか。

「そうか、じゃあこれから、俺達はここに厄介になるってことだな」
「え?」

 この無愛想男――諒は、いきなり何を言い出すのか。
 ここに厄介になるとは、一体どういうことなんだろうか?

「その婆さんから、何も聞いてないのか?」

 諒の問いに、沙織はぷるぷると首を横に振った。
 しかし何故、この二人はここを貸してくれている人物が『老婆』なのを知っているのだろう。

「まぁまぁ、沙織ちゃん、追々分かっていくと思うから…とにかくよろしくね」

 いぶかしげな顔をしている沙織に、悠が言った。
 よろしくと言われても、大家である老婆から、そんな話は一言も聞いていないのだ。
 とにかく大家に確認するまでは、まるで一緒に住むことが決定しているみたいな言い方をしないでほしい。
 その時、部屋の奥から、
『あ゛〜っっっ!!』
 という叫び声が聞こえて来た。
 悠と諒は素知らぬ顔でコーヒーをすすっている。
 そこへ、ドタバタと綾が店に入ってくる。
 何故か、タオルケット一枚の格好だった。

「悠、てめぇ…あたしの服どうした!」
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